雪上の歩き方・アイゼン歩行の練習方法・注意点

雪上の歩き方・アイゼン歩行の練習方法・注意点

登山を象徴する道具のひとつがアイゼン。そのアイゼンを付けて、雪上を歩くのは楽しいです。

ただ、何も準備や練習もせず安易に扱うと転倒や滑落を招き、とても危険です。

一見、扱いやすそうに見えますが、使いこなすには技術が必要です。

そこで、今回、雪上の歩き方・アイゼン歩行方法を解説していきます。基本の歩き方をはじめ、フラットフッティングやキックステップなどの歩行技術、斜面の下り方や登り方、トラバースなどのさまざまな歩行方法についてまとめています。

いきなり現地で歩く前に、アイゼン歩行の最低限の知識を理解しておきましょう。

雪上を歩く前に知っておくこと

雪山登山には基礎技術が必須なります。それが基本の歩き方、アイゼン・ピッケルワークのふたつです。

ここでは、基本の歩き方とアイゼンワークをメインに説明していきます。

まずは、その基本技術を書籍や雑誌やWeb等で最低限の基礎知識を理解してから、講習会やガイド山行、または個人で実際に練習してみて身につけましょう。

そして、初心者からできることから。できる範囲の安全な楽しみを見つけ、ステップアップしながら雪山を楽しんでください。

まずは、アイゼンなしのツボ足で歩いてみる

なにするよりもいきなり本番ではムリがあります。まずは雪に慣れることが必要です。雪が初めてであれば、大雪の日に登山靴で近所を歩いてみたり、スキー場に行くときに登山靴を履いて歩くなど、雪に慣れるのが第一です。雪の感触を確かめ、ふだんの山登りとの違い、靴の埋まり方、ソールの滑り具合などを体験しましょう。

慣れたら、次はキックステップ歩行です。キックステップ歩行とは、雪面に靴を蹴り込むことで足場を作りながら歩く技術で、雪山登山の基本技術です。慣れないうちは、下りと横移動とくに失敗しやすいので、重点的に練習してください。

練習は、傾斜が緩く、転倒しても大滑落にならない場所で行なうよう心がけましょう。

アイゼンの装着してみる

アイゼンは、慣れていないと爪をスパッツなどに引っ掛け転倒を招くので、本番前にしっかりと練習しておくことが大切です。夏山用の登山靴には着かなかったり、登山靴との相性があったりするので、購入時は必ず装着して確認しておきます。入山前に自分の登山靴のサイズに合わせてアイゼンサイズを調整しておけば、現地で慌てずに済みます。

なお、冬用のアイゼンには、前爪がある爪10本以上のものを選びましょう。

ピッケルを使ってみる

ピッケルは森林限界より上の雪山登山でとくに使用頻度が上がる道具です。杖、スコップ、つるはし、滑落防止などの用途に使うことができます。

すべての用途で活用するためには、講習会などに参加するなどし、慣れと習熟が必要です。ただ、最初は基本的な杖としての使い方を身につけておきましょう。杖として使う場合、長い方がよいのですが、ほかの用途を考えると、長さの目安は身長から115cmを引いた程度の長さで、好みによってそれよりも長め、短めで選びます。

雪上での"足の運び方"を学ぶ

アイゼンなしのツボ足での歩行、アイゼンの装着、ピッケルの持ち方がわかったところで、次は足運びを学んでいきます。まずは、アイゼンなしのツボ足での歩行を学んでいきましょう。ツボ足歩行の基本は、足裏全体で雪面をとらえるフラットフッティング、そして、つま先、かかとをしっかりと蹴り込むキックステップです。

フラットフッティング

平らな雪面や緩斜面では、靴底の凹凸が生み出す摩擦力を最大限生かしたフラットフッティングを。足裏全体で雪面をとらえるよう、常にフラット(平行)に足を置いてゆくのがポイントになります。

意識せずに歩くと、後ろ足を蹴るように歩いてしまいます。なので、フラットフティングの際は、前足に体重を乗せるイメージで、靴底に雪面に押し付けるように歩くと、滑りにくく安定感が増します。傾斜が強くなった場合、登りではつま先に、下りではかかとに体重を乗せるよう意識すると、歩きやすくなります。

フラットフッティングでは、靴底により垂直方向の重心がかかるよう、背筋を伸ばすこと。ピッケルにもたれかかるように前かがみになってしまうと靴底に荷重が正しく伝わりません。下りでは腰が引けてしまいがちだが、そうなると荷重が後ろになり、かえってスリップしやすくなるので注意が必要です。

キックステップ

雪面が硬い場合や急斜面では、登山靴のエッジを雪面に蹴り込むキックステップが有効です。キックステップでは、まずは軸足をしっかり決めておくことが大切です。軸足を安定させ、さらにはピッケルでバランスを確保したら、ひざを支点に、登山靴の重みを利用して振り子のイメージでつま先を蹴り込む。一歩を大きくとると力が入りにくいので、小さく、確実に刻んでいきましょう。

キックステップでの下り方

登り同様、下りでも、ピッケルでバランスを確保し、しっかりと軸足を決めてから次の一歩を出そう。振り上げた足を、体重を利用してかかとから叩き込むよういまっすぐ踏み下ろす。しっかりとステップを刻めたことを確認してから、重心を移してゆく。

斜面が強くなったら、重心を移します。斜面が強くなると、どうしても腰が引けてしまいがちだが、踏み出した足に力が加わらないうえに、後ろ荷重となってスリップしやすい。勢いに任せず、一歩一歩、確実に。

トラバース

トラバースは斜面を横切ることです。軸足をフラットに置きにくい場面もあり、はじめは馴染みにくいが、重要な技術です。

これまで同様、ピッケルでしっかりバランスを保ち、軸足はやわらかく、軽く曲げるイメージで振り上げた足を蹴り込んでいく。山側の足は登山靴の外側のエッジを意識しながら斜面に蹴り込みます。谷側の足はやや開き気味にして、つま先から叩き込むイメージです。常に軸足とピッケルで2点支持を確実に行ない、雪が硬い場合は、より山側に蹴り込んでいきます。

トラバースの練習する場合、谷側に崖があるつもりで意識を集中して行うと良い。

下るのが難しほどの急斜面やトラバースの場合

傾斜があまりに強い場合の下りでは、斜面に正対し、ピッケルで雪面をとらえながら、ハシゴを下りるようにキックステップで下っていきます。斜面と体を離し、足元をよく見ながら、ピッケルを持たない手は、蹴り込んだステップを手がかりに、慎重に下りていきます。アイゼン歩行、トラバースでもこのバックステップは有効です。

雪上の歩き方・アイゼン歩行技術

硬い雪や氷、急な斜面が現れたら、いよいよアイゼンの出番です。アイゼンをしっかり装着し、確実に歩行するというアイゼンワークは雪山登山でもとても重要になります。これがうまくできれば、転倒や滑落を防ぐことができる。逆に、アイゼンワークがきちんと出来ていないと、転倒や滑落のリスクがあります。

しっかりとしたアイゼンワークの技術を身につけましょう。

斜面を登る

すべての爪を効くよう、フラットフッティングで登っていきます。アイゼンを引っかけないよう、意識してスタンスを広くとります。両足の間を握りこぶしひとつ分(約10cm以上)あけることを、常に意識すると良いです。

そして、一歩を大きく取ろうとせず小股で歩きます。大股だと、フラットに足を置きづらく、また、アイゼンの爪を効かせににくいです。つま先を外に向けて逆ハの字で歩くと、アイゼンを効かせやすく、疲れにくいです。

アイゼンを信用できないと、ピッケルに荷重をかけがち。そうすると爪が効かず、バランスが崩れてしまう。安心できる場所から、徐々に強い傾斜で練習しよう。

斜面を下る

登り同様、ピッケルでバランスをとり、両足のスタンスを握り拳ひとつ分をあけてフラットフッティング。その際は、つま先から叩き込む意識で踏み出すことで、すべての爪で同時に雪面をとらえることができる。かかとから着地すると、硬い雪面の場合はスリップの原因になることもあるので注意。下りでは恐怖から腰が引けてしまいがち。フラットフッティングを意識して、重心を後ろ足から前足にすばやく移動させ、アイゼンがしっかり効くように体重をかけましょう。

斜めに登る

傾斜が強く、まっすぐ登るのが難しい場合、またはまっすぐ登り続けることで足首が疲れたときなどは、斜めに登るのもひとつの手。緩い角度で斜めに登っていき、ある程度まで行ったら方向を変えて、ジグザグに登っていきます。

このとき、山側の足は、足首を外(山側)に向けてフラットに叩き込む。こうすることですべての爪を効かせることができる。谷側の足はやや開き気味に。こちらも叩き込む意識で。直登よりも時間はかかるけれど、その分、安全で疲労は少ないです。ピッケルでバランスをとりながら、慎重に登っていきます。

斜めに下る

斜めに下る場合も登り同様、ピッケルでバランスを確保しながら、山側の足のつま先を進行方向に、谷側の足のつま先を外側にやや開き、つま先から叩き込むような意識でフラットフッティングを行ない、すべての爪を同時に効かせる。この場合も、腰が引けてしまうとスリップしやすくなるので注意が必要です。

歩行中は常にピッケルでバランスを保ち、軸足との二点支持を徹底しましょう。

もし急斜面を斜めに下るのは難しい。危ないと思ったら、トラバースや三点支持のバックステップで確実に降っていきましょう。

アイゼン歩行の注意点

行動中はグローブを外さない

紛失や風で飛ばされるなどの事態を防ぐため、行動中はグローブを外さないのが大原則。当然、アイゼンの着脱もグローブ着用のまま行えるよう、練習しておく。また、アイゼンの着脱時を含め、行動中は山に背を向けないのもポイント。なにが落ちてくるかわからないし、谷側にアイゼンを向けると、力が加わりにくい。

雪の付着に注意する

春先など、雪や気温の状況によっては、アイゼン裏に雪が付着し、ダンゴ状となって爪が効かなくなってしまう。転倒やスリップの原因になるので、アイゼンに雪が付きはじめたら、ピッケルで叩き落としておく。

突然、強い風が吹いたら

稜線では風速20mを超えると、2本足では立っていられなくなる。そんなときは対風姿勢で突風をやりすごす。腹を押しつけ、上半身でしっかり荷重をかけたピッケルと、しっかり踏み込んだ両足で三角形をつくるように三点支持を行なう。コンテ時に相手の滑落を防ぐのも、この姿勢で。

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てくてくの人
登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。