雪山登山の雪崩対策 リスクを最小限に抑える知識と対処法を解説

雪山登山の雪崩対策 リスクを最小限に抑える知識と対処法を解説

登山者やバックカントリーツアーの人たちが雪山を楽しむうえでいちばんに気になるのは、やはり雪崩です。圧雪されたスキー場などは例外として、基本的に雪が降り積もった斜面ではどこでも雪崩が起こる可能性があります。

雪崩から命を守るには、雪崩地形を認識すること、雪崩地形での行動ルールを守ること、自然の兆候を見逃さないことが大切です。この3つを行動時に守ることで、雪崩のリスクを抑えることができます。

そこで、今回、雪山登山のリスクを減らす雪崩の知識や対処法について解説します。

そもそも雪崩とは なぜ雪崩が起こるのか?

雪山で雪崩に遭遇する確率を最小限に抑えるためには、積雪内にできる弱層の存在を理解し、雪や雪崩についての知識と雪崩への対処法をしっかり身につける必要があります。

最初は、雪崩関連の書籍などを読み込んだり、雪崩講習会などに参加するのがいい。

積雪と降雪の種類

大気中の塵や埃に水蒸気が凍ってくっつくと氷の結晶になる。これがさらに成長すると雪の結晶になり、この雪の結晶が重みを増すと地上に落ちてくる。地表付近で暖められて水滴になったものは雨となるが、融けずにそのまま落ちてきたものが雪である。なお、空で生まれ地上に降ってくる雪を降雪、地上に降り積もった雪を積雪と呼びます。

積雪は、性質の異なる雪の層が積み重なってできているが、その内部では温度変化や湿度変化によって絶えず性質が変わっている。異なる特徴を持った別の性質へと変わるこの変化を変態という。

さらに、積雪の結晶は学術的に「しまり雪」「こしまり雪」「ざらめ雪」「こしもざらめ雪」「しもざらめ雪」「表面霜」「クラスト」「氷板」の8種類に分類されている。このうち、しまり雪、氷板、クラスト以外の5種類は弱層を形成するか、その可能性があると考えられています。

一方、降雪は「新雪」と「あられ」の2種類の結晶に分類され、いずれも弱層を形成します。弱層というのは、ほかの層と比較してみたときに相対的に結合力の弱い層のことで、これが破断することによって上の層が崩れ落ちてくるのが表層雪崩です。

なぜ雪崩が起きるのか

なぜ雪崩が雪崩が起きるのかというと、雪の強度とストレスのバランスが崩れるからです。バランスを崩すきっかけは「自然的要因」と「人為的要因」の2つです。

「自然発生雪崩」は、大量の降雪は、雨、太陽光線などの自然現象が雪の結合を弱くしたり雪の重量を増したりしたときに、重力に耐えきれずに発生します。

一方、「人為的雪崩」は、スキーヤーやスノーボーダーが踏み入ることによってストレスが増えた場合に発生するものです。

そのほか、結合が弱い雪の上が乗った場合など、双方の相乗効果で起こることもある。

雪崩事故の傾向と対策 必ずビーコンの着用を

一般登山者が穂高や剱岳などの稜線を歩く際、ヘルメットの着用が一般化されてきたように、雪山でも雪崩ビーコンの着用が必要になります。

バックカントリースキーの世界では、雪崩ビーコンの着用とシャベル、プロープの携帯はほぼ当たり前となっていて、もしビーコンを持っていない人が仲間にいたら、その人はおそらく山に連れていってもらえないだろう。

しかし一方で、その隣ではグループの全員がビーコンを持たないパーティが雪山に入山することを見かけることもあります。しかし、尾根上でも斜面全体が30度を超えていれば、それは雪崩地形になる。雪崩地形を行動するのであればビーコンを着用しない理由は見つからない。

ビーコンなしで雪崩に埋まった場合、レスキュー隊を雪崩地形に長時間拘束させることにもつながります。ビーコンの着用は自分ひとりの問題ではなく、仲間やレスキューを負担する地域社会のことも考慮し、選択すべき問題なのです。

雪崩が発生しやすい地形ポイント

初心者から経験者まで、雪山のリスクを減らすうえでもっとも大切なことは、注意すべき雪崩地形を認識し、地形を利用して安全なルートを選択して行動することです。

積雪は文字通り千変万化し、それを捉えるには長年の経験と継続的な観察が必要だが、地形は一目瞭然で覚えやすい。雪崩地形とは、文字通りそこにいると雪崩の危険を晒される場所のことで、まずは基本的な雪崩地形の特徴を認識できるように、重要となるポイントを紹介します。

斜度と発生頻度

発生区を見極めるうえでもっとも大切なのが斜度。雪崩のなかでも大きな被害を及ぼす面発生雪崩の多くは、斜度30〜45度の間で発生しています。これより緩い斜度ではまれで、また急な斜面では、一定量の雪が積もるとスラフといって自然と雪が流れてしまう。

いま自分が登っている斜面が何度なのか?これを知ることが雪崩地形を見極めるうえで重要なこととなります。斜度の間隔を身につけるために、コンパスに付けている斜度計を用いるのも有用な方法です。

風の影響を受ける場所

山ではあらゆる方向から風が吹いているが、過去にどの方向から吹いていたのかを知ることも重要。風が吹くと降雪がなくとも雪が移動しはじめ、風下側に割れやすいウインド・スラブという危険な状態の雪を形成するからです。

一般的に風下の斜面は、風上斜面に比べて危険な状態になっていることが多い。雪山には雪庇やシュカブラ、エビの尻尾など、過去の風の方向を示すヒントが隠されている。これらのヒントを使い、過去の風の方向を予想し、いま歩いている斜面がどちらの斜面なのかを予想して登るよう心がけよう。

植生によるアンカー

雪の上に露出している多数の樹木や岩は、積雪をそこに留める役割があります。アンカーは多いほど安定するが、逆に斜面に孤立しているアンカーは雪崩が発生した場合、その周囲に亀裂が入る可能性が高い。

地形形状の違い

山を下っていると、その先の斜面がつながっているのかどうか、上からは見えない斜面があります。そのような斜面を真横から眺めると凸状になっており、こういった地形形状は積雪を下から支える力が弱く。面発生雪崩が起こりやすい地形といえる。

逆に、上から下方すべてが見渡せる斜面は積雪を支える力があるため、より安定していると言えます。これらのスケールは2〜3mの小さな地形から、500m単位で斜面全体が凸状になっている場所もあるが、原則的に同じ地形形状です。

日射の影響は時期で違う

厳冬期は気温が低く、気温上昇が積雪の安定度に与える影響は少ない。また、日射の力も弱いので、一般的に日向斜面では積雪が程よくしまり、安定化に向かう傾向となります。

逆に日陰斜面では、積雪が弱い状態が続いたり、危険な弱層が持続したりする原因ともなります。1〜2月の真冬の時期と3〜4月では太陽の高さも大きく異なるので、春が近くにつれ、この斜面による違いは逆になり、春の日陰斜面は解けたあと凍結して安定し、逆に日向斜面では融解がすすみ不安定な状態となる。

雪崩は起きにくいが危険な箇所

雪崩の発生区とはならないが小さい雪崩に巻き込まれても、埋没や怪我のリスクが増える危険な地形のことを、地形の罠と言います。

そこ自体が雪崩がおきやすい場所というわけではないが、自分がいま立っている斜面において、もし雪崩が発生して巻き込まれた場合、どのようなリスクがあるか想像をして行動することが重要です。地形の罠には立ち入らないか、あるいは立ち入った際でも被害を最小限にするために間隔を空けて通過するか、ひとりづつ通過するなど、雪崩に遭遇したときの対策も必要となります。

下が崖になっている斜面

下が崖になっている斜面で雪崩に巻き込まれた場合、小さなものでも足をすくわれ、崖から転落し死傷事故に結びつく。また下が崖になっていると積雪を下から支える力がないので、雪崩も起きやすい地形といえるだろう。

狭い渓谷や深い沢、窪地

狭い渓谷や深い沢状の地形や窪地。これらの地形は上部から自然発生雪崩が落ちてきた場合、小さな雪崩でも埋没のリスクを高めてしまう。やむ得ずこのような地形を通過する場合は、間隔を開けるか、ひとりづつ通過するべき。

解放斜面下に樹木や岩などの障害物がある

雪崩に巻き込まれた人のうち4人に1人が骨折など外傷が原因で亡くなっています。小さな雪崩でも流されてしまった場合、解放斜面の下に樹林や岩などの障害物があれば、死傷事故に結びつく可能性もありえます。

雪崩のリスクを最小限にするポイント

雪・積雪は日々変動し、経験者でも継続的に観察を続けていなければその全容を掴むことは難しいです。

雪崩の危険を回避するには、「雪崩地形を認識すること」「雪崩地形での原則的な行動ルールを守ること」「明らかな自然の兆候を見逃さないこと」。

この3つを守れば経験の少ない人でも、雪崩リスクを引き下げることができるといえます。

雪崩のリスクを最小限にするルート選び

写真を見てルートを決める際、一番はじめにもっとも安全なルートを見るける癖をつけよう。このルートは斜面の取り付きで斜度が多少急になるが、下3分の2は樹林内を通過する。

また、このルートの右側にある雪崩道を挟んだ反対側の尾根も、急だが樹林帯に覆われいるため雪崩の危険は少ないといえる。上部では樹林帯がなくなるが、斜度が緩い点と、比較的尾根上を通っている点で安心といえ、危険への暴露が少ない。

休憩するポイント

休憩する際は短時間でも停滞することになるのでなるべき解放斜面は避け、少しでもアンカーとなる植生がある場所を選ぶべきである。上部からの雪崩に注意することや、快適性の面では、強風の際になるべく風から遮られている樹林の中を選び、尾根上などは避けて休憩すべきといえる。また、尾根上などは風下側に雪庇が発達していることもあり、その点でも注意が必要です。

テント泊をするポイント

テント泊をする場合、休憩する長時間その場所に滞在することになるため、より安全な地形が求められる。また、平坦であることと、風への防備は快適性にもつながってくる。周囲が太い樹林に囲まれており、雪崩が過去に到達したことのない場所、あるいは小高い丘などの、いわゆる安全の島であることが必要。テントはいったん張ってしまうと移動することが困難なので、慎重に場所を選ぼう

間隔を空けて通る箇所

この部分は大きな雪崩道になっており、過去に何度も大規模な雪崩が発生していることがわかる。発生区(雪崩が発生したり、雪崩を誘発したりする可能性のある場所)は遥か上部にあるため、下から上部の雪の安定度を判断することは難しい。油断しがちだが、植生がなにもないことから過去の雪崩の形跡がうかがえる。通過する必要がある場所は、万が一の被害を抑えるため、ひとりづつ間隔を空けて通過することを心がけよう。

真新しい雪崩の跡

当日の積雪の状態を判断するうえで最重要なのが、最近起こった真新しい雪崩の跡があるかどうか。そのほか、シューティングクラックと呼ばれる亀裂を目撃したり、ワッフ音と呼ばれる弱層が潰れる音を聞いた際なども同様。これらのサインは積雪が不安定である直接的な証拠となり、重視しなければいけない。そのような直接証拠を観察した場所、同様の向き、標高帯の斜面では、同じように不安定と考えるべきである。

雪崩情報を活用しよう

日本雪崩ネットワークでは白馬、立山、谷川岳周辺エリアの雪崩情報を提供している。メンバーである山岳ガイドや一般ユーザーより寄せられた情報を整理し、国際基準にのっとった5段評価で、雪と雪崩の情報を提供している。

日本雪崩ネットワーク

それでも雪崩に巻き込まれたら

ここでは実際に自分が雪崩に巻き込まれたときの対処法を説明します。

雪崩の発生を知らせるために叫ぶ

雪山で行動中、自分の周りの斜面に亀裂が入ったり斜面全体が移動しはじめたりした場合、まずしなければいけないことはは雪崩の発生を仲間に知らせること。

たいて自分のことを仲間は見ていてくれないもの。雪崩だとまずは仲間に大声で雪崩の発生を知らせよう。また、注意喚起を行うことでこれ以上流される仲間を減らすこともできるかもしれない。

雪崩からの脱出を試みる

不幸にして雪崩に巻き込まれた場合、次に取るべき行動は動いている雪崩から逃げること。つまり脱出。雪崩は発生から数秒のうちに時速40km以上に達するもので、逃げられるチャンスは始めのわずかな数秒に限られている。スキーやスノーボードを履いていれば勢いをつけてフォールラインに対して斜め45度の方向に逃げることもできるが、登山者の場合はスピードと勢いがないため、この段階で逃げることは難しい。

流されないように木や岩をつかむ

溺れる者は藁をも掴むではないが、雪が移動しはじめた際、周辺に木や岩など捕まるものがあれば掴む努力をしよう。

ただし、この対応が有効なのも雪崩本体のスピードがまだ遅いはじめの数秒の間だけの話。流されてしまったあとでは、木や岩はかえって障害物として外傷の原因対象となります。また、友人のなかにはこの段階でのピッケル制動で止まったという人もいる。とにかく流されないため、あらゆる手段を講じることが必要となる。

表層に留まるように泳ぐ

泳ぐとはおかしな表現と思うかもしれないが、海で大きな波に飲まれたときの事を想像してみてほしい。人間の身体の水分保有量は多く、山では装備も背負っている。動いている雪崩の中には空気も多く含まれているので、そのままだと登山者の身体は底へ沈んでいくといわれている。いったん雪崩が停止すると、雪の重さでコンクリートのように固まっていき身動きが取れなくなるので、動いているうちに雪崩の表層に留まる努力をしよう。

呼吸できるようにエアポットを作る

雪の勢いが弱まり雪崩が止まりそうな雰囲気になった場合、逃げる努力は諦め、あとは呼吸する空間を作ることに集中しよう。呼吸空間がないと、口の周りで吐く息によって解けた雪が固まり、アイマスクと呼ばれる現象が起こって呼吸ができなくなる。それを防ぐために両手で口の周りを覆い、ゴーグルやヘルメットがあれば口の周りを塞ぐ。呼吸空間を作ったあとは、パニックにならないように心を落ち着け、静かにレスキューを待とう。

仲間が雪崩に遭遇したら

次は自分以外の人間が雪崩に巻き込まれたケースを説明します。

まずは叫び、安全地帯から流される人を目視する

まずは雪崩の発生を知らせるために「雪崩だ」と叫び、周囲に注意を喚起します。そのあとは流されていく人を目視する必要がある。

このあとに続く捜索する範囲を挟めるためにも"どこで見えなくなったのか"最終目撃地点を確認しておけば、最終目撃地点より上は探す必要がなくなっていきます。その際、自分も雪崩に巻き込まれないよう安全地帯に留まった上で、目視を続けることが大切です。

人数を確認する

流されている人が見えなくなり雪崩が停止したあと、次にすべきことは何人巻き込まれたのか、残されたメンバー全員が安全地帯にいるか、と人数を確認すること。このためには入山のときから、常にメンバーの全体の人数が何人かを把握しておく必要があります。

そのあとは安全確認を行い、レスキュー隊を再編成して、実際のレスキューを行うことになる。実際のレスキューを行うことになる。

プロフィール画像

てくてくの人
登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。