雪上歩行の効率を上げるスノーシューの選び方 山域に応じたモデル選び

雪上歩行の効率を上げるスノーシューの選び方 山域に応じたモデル選び

スノーシューは、深い雪の上を歩く際には、歩行スピードも上がり、疲労を軽減してくれる便利な道具です!

雪に閉ざされた冬山の世界は、誰もが気軽に足を踏み入れることは許されないが、スノーシューのおかげで、森林限界以上の斜度のある山岳、平地・緩斜面など、雪の上をより安全で快適な歩行を可能にしてくれます。誰もが気軽にスノーハイキングやバックカントリーを楽しむことができます。

そこで、今回、雪上歩行の効率を上げるスノーシューの選び方を解説します。スノーシューとはをはじめ、スノーシューの種類、各部名称や機能、選び方のポイントなどをまとめています。

スノーシューってなに?

スノーシューとは、踏み固められていないふかふかの雪の上を効率よく歩くための道具。

ブーツをはいた上に装着して接地面積を広くすることで、雪の上でも沈まずに歩けるようになります。荷重が大きければ大きいほど、または雪質が軽く乾いていればいるほど沈みやすいため、スノーシューが必要とされます。

スノーシューは、登山者の趣味趣向に応じてさまざまだが、凍結した湖上や雪原など歩くスノーハイキングで使われることが多い。スノーシューのおかげで、夏に入れなかった湖や雪上など、白銀の世界に包まれる独特の感覚を誰もが手軽に味わえる。

また、富山県の立山室堂一帯や北海道の大雪山などの山岳域で人気を博すのがバックカントリー・スノーボード。スノーシューは、スノーボードを担ぎ上げて滑走する際に無くてならない存在です。板を分割してあるくスプリットボードも急速に普及しているが、比較的手軽に始めることができるので主役の座はまだ健在です。

スノーシューの種類

自分が登る山域や登山スタイル、体格、レベルなどに応じたスノーシューの選び方を紹介する前に、まずは用途ごとに分類されるカテゴリーを理解することから始めよう。スノーシューは大きく分けて3種類+ワカンがあります。

バックカントリー・モデル(斜度のある山岳向け)

雪原などでのスノーハイキングはもちろん、急峻な雪山を登るために作られたスノーシューをバックカントリー・モデルとして分類した。雪が吹き飛ばされ、凍結したした斜面での安定した登高紫衣脳、本来スノーシューが不得意とするトラバース性能を向上するために搭載したトウクランポンやサイドエッジなどの充実した機能が特徴。直登時に威力を発揮するヒールリフター、より過酷な環境に対応した素材や構造も取り入れられている。

スノーハイク・モデル(平地・緩斜面向け)

本格的な雪山を登るためのバックカントリー・モデルに対して、より気軽なスノーハイキングを楽しむためのモデルです。コストパフォーマンスの高さが最大の魅力であり、凍結した湖上や雪原、起伏が緩やかな低山ハイキング用に開発され、トウクランポンやサイドエッジなどは省略されている。バインディングも簡素に留められ、ヒールリフターも備えないモデルが多い。森林限界以下の山域で使いたいという人におすすめ。

レースモデル(スノーランニング向け)

欧米を始め、日本でも毎日のランニングが欠かせないという人は多い。そうした人たちのため、冬期の雪上ランニングを可能とするのがレース&フィットネス・モデル。ほかのカテゴリーのモデルよりも、浮力を少なく抑え、ランニング時に左右のスノーシューが干渉してしまうのを防ぐため立体的でシェイプされた細身のフレームを備える。素材や構造を見直すことで軽量化も果たされており、過剰なクランポンも排除されている。

ワカン(森林限界以上の高所)

北米で雪上歩行具として発展したスノーシューに対して、雪深く、急峻な日本の山々を歩くために生まれたのがワカン。日本海側の豪雪地帯を中心に民具として古くから親しまれ、現在も猟師や林業に従事する人たちのあいだではなくてはならない仕事道具である。登山の世界でも、日本の山にはワカン以外考えられないという傾向も強かった。だが、近年はそうした考えをもつ人も少なくなってきている。

スノーシューの種類
タイプ特徴用途
バックカントリー・モデル
  • ・登高性能を高めたアイゼン装備
  • ・本格的なバックカントリーツアー向き
  • ・バックカントリー
  • ・広い斜度のある山
スノーハイク・モデル
  • ・簡素なクランポン
  • ・アップダウンの少ない雪原ハイキング向き
  • ・平地・雪原
  • ・緩斜面向き
レースモデル
  • ・雪上での走りやすさを求めた形状
  • ・スノーランニング向き
ワカン
  • ・軽量で、雪面に足を沈ませるための低浮力
  • ・斜度があっても歩きやすい
  • ・トラバースがしやすい
  • ・伝統的な日本の冬山登山装備
  • ・急峻な山
  • ・森林限界以上の高所

大きければいいわけではない、スノーシューのサイズ

スノーシューの各モデルには、適合荷重に応じたサイズ展開が行われている。それぞれが適合荷重40〜80kgといった数値で表されており、使う人の体重だけでなく荷物の重さも考慮して選ぶようになっている。しかし、日本の山のように急峻な斜面が多く、谷筋も欧米のような氷河地形でなくV字谷であるときは、ある程度足を雪面に沈ませて歩くほうが疲労度合いが少なくなることが多い。このため、単純に適合荷重だけでスノーシューのサイズを選ぶのではなく、若干浮力が少ないものを選ぶという選択肢もある。日本本来のスノーシューであるワカンは、まさにこの考えから発展した形状になっている。そのため浮力を得るためのデッキ面をもたず、フレームがもつ若干の浮力で足を沈み込ませながら歩くようになっている。

スノーシューの各部名称と機能

用途ごとの分類の次に知りたいのが、スノーシューが備える各部名称や機能です。合わせて、基本的な構造や素材なども紹介。

フレーム

スノーシューを形づくるかなめ。高品質なアルミチューブが一般的だが、アルミプレートでできたフレームなども登場している。

バインディング

スノーシューを履くために登山靴やスノーボードブーツを包み、調節機能を備える。シンプルなものから豪華なものまでさまざま

トウクランポン

雪面に食い込ませて登高するため、つま先部分に備わっているクランポン。バックカントリー・モデルなどでは、より立体的な形状を採用

ヒールリフター

急斜面や直登時にかかとを持ち上げて、疲労を軽減するための機能。バックカントリー・モデルを中心に高機能モデルに備わる

ヒールクランポン

かかと裏につけられた、横滑りを防ぐためのクランポン。バックカントリーやスノーハイク・モデルなどカテゴリーを問わず備わる

デッキ

設置面積を増やして雪面に対する浮力を得るためのもの。ネオプレーンやハイパロン素材などのほか、一体成形されたモデルもある

サイドエッジ

ヒールクランポンに加えて、さらなる横滑りを防ぐための機能。近年のバックカントリー・モデルには、フレーム一体型も多い

スノーシューの選び方

次に、実際に選ぶときに重要なポイントを紹介していきます。

山域に応じたクランポンの性能

スノーシューの分類では、踏み入る山域に応じてバックカントリー・モデルなどのカテゴリー分けをしました。こうした分類は、各モデルが搭載するクランポン・システムによって決まります。

比較的フラットな地形を歩くためのスノーハイク・モデルは、基本的には簡素なトウクランポンが採用されており、価格も低めに抑えられる傾向にある。いっぽう、バックカントリー・モデルでは、スノーボード滑走をするためのより本格的な深雪登高、稜線など雪が飛ばされた硬い雪面で安定した歩行ができるよう配慮されています。

また、横滑りを防ぎ登高性能を高めるためのサイドエッジやヒールクランポンが搭載されているモデルがある。MSR「ライトニング・アッセン」では、アルミプレート製フレームにサイドエッジを刻み、高いグリップ力と軽量化を実現している。他のメーカーも独自のシステムを考案して、さら改良に努めている。

バインディングは着脱と運搬のしやすさを決める

スノーシューを登山靴やスノーボード・ブーツに装着するためのバインディングは、それぞれに長所と短所があります。そのため、登山スタイルや好みに応じて選びたい。

例えば、MSR「ライトニング・アッセン」のようなシンプルなものは、脱着と調整には若干の時間とコツが必要だが、フラットに収納することができる。このため荷物をしっかりと固定したいスノーボード滑走時などの利便性が高い。

いっぽうタブス「フレックスVTR」や、アトラス「スピンドリフト24」のように一瞬でしっかりと調整でき、フィット感にも優れるバインディングもラインナップされている。よりしっかりとしたホールド感、登山中に安定感をとくに求める人にはこちらがおすすめ。

疲労を軽減するヒールリフター

急斜面を直登する際、足にかかる負担を軽減する目的で考案されたヒールリフター。トラバース歩行が不得意なスノーシューでは、足先を雪面に蹴り込みながらの直登が多くなる。このとき足首にかかる負担は無視できない。

本格的な雪山登山やバックカントリー・スノーボードに使用するならば、疲労の度合いと歩行スピードに大きな違いが生まれるため、ヒールリフターのあるモデルがおすすめ。
使い方も簡単です。スキーポールのグリップなどを使い、手前に引き上げるように起こせば設置が完了する。

バインディングの取り付け構造も重要

見落としがちだが、バインディングを取り付ける構造によっても、歩行感覚は大きく異なります。アトラス独自の「スプリングローデッド・サスペンション」は、弾力性が高いバネのような構造にすることで足底との絶妙なスペースを保持するシステムとして評判が高い。このシステムでは、バインディングを3本(または2本)のストラップを本体に固定しており、ストラップの反発力を利用して軽い歩行感と衝撃吸収機能を実現させている。

一般的な取り付け構造のスノーシューでは、下り坂でかかと部が下がってしまい歩きにくくなることがあるおんだが、アトラスのシステムはこれも解消してくれる。

本体素材によって変わるたわみ具合

スノーシュー素材は、おもにアルミ製チューブにネオプレーンやハイパロン製デッキを張ったモデル、射出成形樹脂やアルミプレートを採用したもののほか、ハイブリッド素材モデルも多数登場している。

素材それぞれの特徴があります。もっとも普及するアルミフレームは適度な柔軟性と耐久性を備えるが、硬い雪面や岩場などを歩くとデッキ素材がダメージを受けやすい。いっぽう射出成形樹脂の本体は耐衝撃性に優れ、柔軟性をもたせたいところ、そうでないところなど自由な構造にしやすい特徴がある。また、比較的リーズナブルに仕上がることも特徴と言えます。

女性用モデルの違いはサイズだけではない

身長や体格が異なるだけでなく、男性と女性では歩幅や歩き方まで違う。そのため、アトラスやタブス、MSRといったメーカーからは女性専用設計のスノーシューがラインアップされています。

女性の歩幅は男性に比べて短く、速いピッチで歩く傾向は男性に比べて短く、速いピッチで歩く傾向にあると言われています。そのため、テールを引きずりがちで、これを解消しながら、より自然な歩行ができるように本体後部を上向きにカーブさせ、幅も細めに設定している。

さらに男性よりも骨盤の幅に対してスタンスが狭いため、スノーシュー歩行時にふらつきやすいそう。このため、足の筋肉が回転したり、ねじれたりすのを防ぐように工夫している。

浮力が調整可能なモデルもある

スノーシューは、体重だけでなく荷物の重さも考慮してサイズ選びをしたい。体重70kgの人が20kgの荷物を背負って行く場合、90kgの適合荷重を備えるモデルが最適。

ただ、急峻な地形を歩く場合は、ある程度足を雪面に沈ませて歩くことで疲労を軽減できることが多い。そのため、あえて浮力が小さめのモデルを選ぶ選択肢もある。

また別売りで「フローテーション・テール」という浮力体を用意しており、これを末端に取り付けて、状況に応じて浮力を調節できるモデルもある。

スプリットボードか? スノーシューか?

スノーシューを雪山登山やスノーハイキングだけでなく、バックカントリー・スノーボードに出掛けるときの登高用具として考える人も多いだろう。この場合、とても悩ましいのが近年急激に普及し始めているスプリットボードの存在であろう。スプリットボードの存在であろう。スプリットボードは板を背負う必要がなくなるので身軽な行動が可能となり、歩行スピードも疲労も大幅に軽減される。そのため、「もう通常スノーボードには戻れない」という人も多い。稜線上で、強風でスノーボードが煽られて苦労することもなくなる。いっぽう、板やバインディングに加えて、登高に必要なクライミングスキンなどを新たに購入する必要があり、大きな出費を覚悟しなくてはならない。クライミングスキンでの登高は、ある程度の技術も要する。そのためより気軽にバックカントリーを楽しみたいならばスノーシューを使い、技術と経験を重ねてからスプリットボードに変えていくのがいいだろう。

プロフィール画像

てくてくの人
登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。