真夏の登山でも気をつけたい低体温症。予防や対処法、役立つ道具を紹介

登山で気をつけたい低体温症の予防と対処法を解説。致命的な低体温症による遭難は意外にも夏に多く、真夏の登山でも防寒着が貧弱にならないように注意が必要です。季節や標高はあまり関係ありません。ここでは、いざという時のために、正しく対処ができるように、低体温症の症状、予防や対処法、有効な道具などをまとめてます。

低体温症は登山で気をつけておきたい症状のひとつ。

致命的な低体温症による遭難は意外にも夏に多くなります。標高1,000mに満たない低山や、真夏の登山でも、日常生活の暑さから防寒着が貧弱にならないように、注意が必要になります。

特に、高い山には行かないし、自分には関係ないと思っている初心者にこそ、症状や対策をぜひ知っておいてほしい。低体温症は季節や標高はあまり関係ありません。

ここでは、今回、低体温症の正しい予防と対処法を解説します。いざという時のために、正しい対応ができるようにしっかり学んでおきましょう。

低体温症の症状

低体温症の進行度は、体の中心部の温度と密接な関係があります。登山中に体温を測ることはできないが、症状からおおよその温度を知ることはできます。

低体温症の症状を判断するキーポイントは、震えと意識。体の深い部分の温度(コア体温)が36℃になると、寒さを感じて震え始めます。35℃で震えが最大になり、周囲に無関心で疲れたように見えます。35℃以下を低体温症と言います。低体温症から自力で回復できる安全限界は34℃です。34℃で意識障害が始まり、周囲に無関心になります。よろめいたり、ろれつがまわなくなります。32℃で震えが止まり、32℃が危険な状態の境界です。それ以上悪化すると意識がなくなり、やがて呼吸と脈もなくなります。

症状で気をつけたいのは判断力と意識の低下。脳の機能が低下していることであり、一刻も早い対策が必要になります。

低体温症 症状と程度
36.5℃正常
36℃体全体に寒さを感じるようなり震えが始まる
35℃震えが最大になる。手足の動きが鈍くなり、判断力が低下する
34℃自力回復限界
34℃〜32℃意識障害が始まる。よろめく、すぐ眠る、ろれつが回らない
32℃震えが止まる
32℃以下意識がなくなる。心拍微弱、呼吸減少、心肺停止
30℃錯乱状態になる
28℃昏睡状態。心臓が停止することが多い

登山で低体温症にならないための対策・予防法。低温・風・濡れを防ぐ

人の体は体内で熱を作っていて、環境が変化しても体の中心部の温度は36〜37℃に保たれています。低体温症は体温が低下すること。体温を保つ機能を維持できなくなるほどに体温が奪われ、35℃以下になってしまうことで起こります。

体温低下によって脳、心臓、筋肉などの機能障害が起こり、死に至ることもある。

三大原因は低温、風、濡れです。夏山でも気温が10℃以下、風速が10m以上だと危険です。言うまでもなく低温と風は体から熱を奪いますが、濡れた衣類は空気の25倍の速さで熱を奪うのでとくに注意が必要です。雨や雪ばかりではなく、汗にも気をつけましょう。

体から奪われる熱

  • 放射:体から直接熱を放出する現象。熱の放射を減らすにはウェアを着る。
  • 蒸発:汗が蒸発して熱を奪う現象。
  • 伝導:濡れた衣類などが体に触れて熱を奪う現象
  • 対流:風が体温を下げる現象

低体温症にならないために大切なこと

体を濡らさないことが最も大切です。
吸汗速乾性のあるウェアを着用しよう。特に肌に直接触れるアンダーウェアは、できるだけ高機能のものを選びたい。さらにレインウェアは防水透湿性のものを着用し、雨と風による冷えを防ぐと同時に、汗などによる内部の濡れを軽減する。
また、体のエネルギーが切れないようにすることも大切。高カロリーの行動食をこまめにとり、どうしても風雨のなかを行動しなければならない場合は、出発前にはいつもより多めの炭水化物(ごはん、パンなど。エネルギー源となる)をとっておくとよい。
それでも低体温症は、気づかないうちに忍び寄るようにやってきて、急激に悪化する。最大の回避法は風雨のなかで行動しないことである。

限界温度になる前に下山する

体の中心部の温度が限界温度になると、絶えず震えて、しゃべってもろれつが回らない状態になってしまいます。動きはふらふらと不安定で、ほかの人の言うことを理解できなくなり、飲食も困難になる。ここまでくると、山のなかでの救命は難しい。限界温度になる前に下山するか、できない場合は風をよけてビバークすること。

夏こそ用心したい低体温症

致命的な低体温症による遭難は意外にも夏に多い。理由は日常生活の暑さから、防寒着が貧弱になりやすいから。さらに気温は低いものの乾燥している冬の「乾性寒冷」よりも、夏の風雨よる「温性寒冷」のほうが体温を奪うスピードは速く、症状の悪化も急激になる。夏こそ、低体温症にはいっそうの用心が必要。真夏でもフリース、ダウンなどの防寒具は必携である。

低体温症になったときの対処法

小屋などに避難し、濡れている衣類を、乾いているものに着替えます。それから暖かい飲み物を飲みます。糖分が入ったものがなお良いです。

体温が34℃程度までの軽い低体温症の場合は、外の熱源に頼らずに自分で回復できる場合が多いので、どのような温め方でも良いです。両腕の付け根のすぐ下、首、肩、股の付け根など、皮膚の表面に近い太い血管を温めます。お湯を入れたペットボトルや携帯用カイロなどをあてますが、やけど防止のために直接肌に触れないように布でくるみます。

体温が34℃以下の場合は、急な加温は避け、シュラフに入れて保温し、安静を保ちます。急に手足を加温すると、冷たい血液が急に心臓に流れ込むことで、重症な不整脈を引き起こしてしまうことがあります。体表面の加温によってコア温度が低下してしまうためで、アフタードロップと呼ばれます。アフタードロップを避けるために、丁寧に看護します。
ゆすったり、歩かせたり、心臓マッサージも体を激しく揺さぶるので避けましょう。
人工呼吸は温かい息を体内に送り込めるので、有効な場合もあります。

もしコア体温が30℃以下では、残念なことに蘇生は困難です。

ウェアに最善の配慮

下着とアウターは速乾性と保温性のあるものを着ます。新素材のものが次々と開発されているので、店頭やネットで研究しましょう。木綿は乾きにくく、絶対に止めましょう。
ウェアの一番外にはゴアテックスなどの防水透湿性素材の製品を着ましょう。防水性があり、汗を出すなど透湿性もあるので、濡れと風対策をかねます。
寒さを感じたら、早めに重ね着をします。重ね着は空気の層が何層にもできて体を温めます。首筋、頭、手なども防寒着で温め、いざとなったら、レスキューシートを体に巻きつけます。

ダウンジャケットやチョッキは濡れると保温性が低下するので、雨や霧の時に一番外には着てはいけません。ただし、外気が乾燥していれば、上に重ね着しても大丈夫です。 季節に合ったものを着て、汗をかかないようにウェアを調整しましょう。

こまめに食べ物を摂取する

食べ物をこまめにとり、体内の熱源を維持します。震えて発熱できるパワーを体内に蓄えておくことです。すぐエネルギーになる糖(炭水化物)を取ります。おむすび、パン、キャンディ、チョコレートなど。

常に仲間の体調の注意を払う

低体温症の症状が見られないか、相互に監視するようにします。天候の変化にも注意を払いましょう。

雨風を避けられる場所に移動する

山小屋、樹林帯に逃げ込みます。小屋がなければ、ツエルト、テント、雪洞などに入ります。地面との断熱に注意します。

低体温症を回復させるには

低体温症になったならば、限界温度にならないうちに行動を中止して下山する。できないときは風をよけてビバークをする。一度下がってしまった体温は、温かなものがないと、なかなか上がらない。お湯を入れたペットボトルを首や脇の下などに入れて、体を温めよう。使い捨てカイロを使うのも有効。飲食が可能であるれば、温かい飲み物も飲もう。

低体温症に役立つ道具たち

エマージェンシーシート

災害時、遭難時に体温低下を防ぐエマージェンシーシート。耐熱幅射の効果を高める加工を生地に施し、優れた保温性を発揮します。軍隊や救助隊のプロも使用します。重さ55gほどと非常に軽量なので、テント泊でない人も常備しておきたいです。

ツェルト

緊急時以外にも使える便利なツエルト、雨や風の休憩時だけでなくビバークの時などにも使えます。1〜2人用であれば重さも250g前後と非常に軽いです。パーティのうち一人には所持しておきたい装備。

プロフィール画像

てくてくの人
登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。