ピッケルの選び方!強度・シャフトの形状や長さ・握りやすさが重要

ピッケルの選び方!強度・シャフトの形状や長さ・握りやすさが重要

登山を象徴する道具のひとつがピッケル。雪山登山をするなら必携の道具です。

ピッケルは、歩行中のバランス保持、滑落停止、雪や氷のカッティング、氷壁の登攀、グリセードやシリセード、支点確保と、さまざまな用途で活躍します。

ただ、一般的な縦走登山などでは、ピッケルを積極的に活用するシーンはあまりなく、なんとなく手に持っているだけという人も多く、その選び方や使い方をきちんと理解している人は少ない。

そこで、ここでは、雪山登山には欠かせないピッケルの選び方を解説します。ピッケルの基礎知識をはじめ、使い方、シャフトのカーブや長さ、ピックの形状、素材によるさまざまな種類、各部名称と役割、選び方のポイントなどをまとめています。

ピッケルの基礎知識

ピッケル選びは、バックパックと同様に難しいです。ひとつですべてをまかなうことができません。

ピッケルを、おもに杖として使うならば、長いものを選んだ方が良い。目安は、ブレード側を上に持って体に沿わせたとき、石突きがくるぶしにくるくらいの長さです。

トレッキングポールと併用するならば、取り回しのよい短めを選ぶ方が良い。目安は、ブレード側を握ってその腕に沿わせ、脇に当たらないくらいの長さです。将来的に登攀をめざすなら短いほうがよいが、大は小を兼ねる側面もあります。

ピッケルの用途

雪山登山を象徴する道具のひとつがピッケル。その使い方で最も重要なのは、一番目の滑落したときに落下を止めること。雪の急斜面で滑ってしまった場合、滑落を止める手段はこれしかないといっていい。もし止められない場合は、ぐんぐん加速して岩や木い激突し、大けがあるいは死亡という結果につながる。

無事に歩いている以上、あまり活躍することはないかもしれない。

ピッケルの用途はだいたい以下のようなものです

  • 滑落したときに落下を止める
  • 歩行時のバランスをとる
  • 急斜面で雪に刺して手がかりとする
  • ショベルでは歯が立たないような硬い雪や氷を掘る
  • 雪に差し込んだり埋め込んだりして確保支点とする

山行や体に合ったピッケルの選び方

自分がどんな雪山をやりたいか見通しを立てたうえで、ピッケルのタイプを決める。そして、長さ、重量を考慮して選ぼう。スノーハイク的なやさしい雪山だけ行くのなら軽量タイプでもいいが、2500m級以上の本格的な雪山もめざすのなら標準タイプ(縦走用)が必要になります。

ピッケルの長さは、短めをすすめられることが多いです。しかし、通常の雪上歩行のとき、ピッケルの先がまったく雪に届かないのでは使いにくい。体の横に持ち、スパイクの先がくるぶしの上下各5cmの範囲にくる長さがよい。

縦走用ピッケル

初歩的なルートから登攀的なルートまでオールラウンドに使えるピッケル。シャフトは直線的な形をしていて、雪にまっすぐに刺すことができるため使いやすい。ヘッド、シャフトにほどよい厚みがあり、充分な強度を持っている。

登攀用ピッケル

一般ルートに加えて、岩や氷のクライミングで対応したタイプ。シャフトの上部が曲がっていて、急斜面で使いやすいようになっている。ヘッドはやや大きめで、ピック、アッズ、の下向き角度がややきつく、氷雪を処理しやすい。シャフトの下部は直線なので、雪に刺すのに支障はない。

軽量ピッケル

初歩的なコースやスノーハイキングで杖のように使ったり、スキーツアーなどで万一に備えて持っていく軽量ピッケル。縦走用に比べて150〜200gも軽量化している。機能は標準用とあまり変わらないが、シャフトが細身でヘッドが小さいため、雪に刺したり氷雪を処理する操作はやりにくい。

体への固定 ピッケルのリーシュ

ピッケルを体につなぐピッケルのリーシュは「肩かけ式」はピッケルを左右の手で持ち替えるのが簡単だが、滑落したときはピッケルをはじき飛ばされる恐れがあります。「手首式」はピッケルが手に近いため紛失しにくいが、左右の持ち替えは面倒。ただ、岩場やクサリ場で両手を使いやすく、より登攀的な登山に向いている。

ピッケルの種類と特徴

ピッケルは、シャフトのカーブや長さ、ピックの形状、また材質などは、用途によってさまざま。

目指す山やルートの難易度によって適応するモデルが異なります。それぞれのモデルの特徴を理解し、自分の山行目的に合ったモデルを選ぶ必要があります。

縦走用モデル

もっとも一般的なピッケル。便宜的に縦走用としたが、縦走にかぎらず、歩行中心の雪山登山に幅広く使える。シャフトはまっすぐのものが多く、ゆるくカーブしたシャフトを備える縦走用モデルも増えてきました。シャフトの素材はアルミ合金などで、重量的には400〜500gくらいのものが主流になります。

ひと昔前に比べて軽量化が進んでいる。リーシュと呼ばれるバンドとセットで使うのが基本で、手首か胴体とピッケルをつないでおくようにします。

軽量モデル

バックカントリースキー・スノーボードや残雪期登山などで、緊急用として携行するのに適したピッケル。縦走用モデルよりも軽いのが特徴で、ヘッドまで全体がアルミ合金でできているものもあります。積極的な使用はあまり想定していないので、シャフトが短かったりスパイクが省力されているなど、縦走用に比べると使い勝手は劣ります。オールアルミ製のものは強度的にも劣り、強い力でこじったり岩に打ち付けたりすると破損することもある。あくまで緊急用途のためのもの。

バリエーションモデル

一般コースよりも少し難しく、岩場が出てくるようなルートをバリエーションルートというが、そういう場所に適したピッケル。縦走用ピッケルよりも鋭いピッケルを備えており、硬い雪や氷に打ち込みやすく、ピックの交換がえきるものも多いです。シャフトはカーブしたものがほとんどで、50〜60cmほどと短めになっている。縦走用モデルとクライミングモデルの中間的な存在で、どちらにも使える汎用性もあります。

クライミングモデル

アイスクライミングやアルパインクライミングを主目的にしているタイプ。刃物のようなする鋭いリバースピックと深くカーブしたシャフト、そしてフィンガーレスト付きのグリップを備えていることが特徴です。

ブレード付きのタイプも選べるものが多いが、その多くは一応使える程度の小ぶりなもので、積極的な使用は想定していません。ブレード部分がハンマーになっているもののほうが主流です。

先鋭クライミングモデル

垂直あるいはそれ以上にオーバーハングした氷や岩壁を登るためのツール。アイスクライミング競技に使われるのもこのタイプ。独立したハンドルグリップを備え、ブレードやハンマーは省略されている。なかにはスパイクまで省略されているものもある。クライミングモデルまでは縦走で使うことも可能だが、この先鋭モデルはヘッド部分を持って使うことをほとんど想定していないので、歩き主体の登山ではさすがに使いにくい。

ピッケルの種類
タイプ特徴用途
縦走用モデル
  • ・もっとも一般的なピッケル
  • ・シャフトがゆるく曲がったものもある
歩行中心の雪山登山
軽量モデル
  • ・バックカントリーで主流
  • ・万一のための緊急用途が主
バックカントリースキー・スノーボードや残雪期登山など
バリエーションモデル縦走モデルとクライミングモデルの中間的存在北アルプスなど難しい山行
クライミングモデルブレードではなくハンマーが付いているものが多いアイスクライミングやアルパインクライミング用
先鋭クライミングモデル縦走などの一般用途には使いにくい垂直以上のアイス&アルパインクライミング専用

ピッケルの各部名称と役割

クライミング用は別として、ピッケルは形が単純で見た目のち外があまりないので、どれがいいのかわかりにくい。ひとつひとつのパーツには意味があるので、それを知って自分に合うものを見極めよう。

ヘッド

ピッケルの最上部。一般的には、シャフトとピック、ブレードが連結されている部分一帯をさす。いわばピッケルの心臓部

ピック

つるはし状に尖った部分。雪に突き刺して滑落停止たり、氷に刺して手がかりにしたりする。ピッケルの性能を左右する重要な部分

ブレード

三角形のへらのような形をしており、氷をカッティングしたり、ショベル代わりに雪を掘ったりすることができる。アッズともいう。

カラビナホール

ヘッドに開けられた穴。スタンディングアックスビレイなどでピッケルを確保支点として使うときにはこの穴を利用することが多い

シャフト

アルミ合金などの軽量な金属でできていることがほとんどで、一部にはカーボン製もある。曲がりが深くなるほど急斜面に強くなる

スパイク

シャフト下部の尖った部分。地面や岩を突くことが多いので硬いスチールなどでできている。石突やスピッツェともいう

リーシュ

急斜面などでピケル落とさないように体につないでおくためのバンド。手首に通しておくタイプと、胴につなぐタイプが主流。

トリガー

グリップ上部の出っ張った部分。クライミングモデルに付く機能。アイスクラミングで手の持ち替えをするときなどに役立つ

フィンガーレスト

シャフト下部にある返しの部分。アイスクライミングにはなくてはならない機能で、登っているときに握力を大幅にセーブできる。

ピッケルの選び方

シャフトの形 ストレートかカーブか

ピッケルのシャフトはまっすぐというのが常識だったが、クライミング用にカーブしたシャフトが登場し、歩行時にもその有用性が認められてきたことから、縦走用ピッケルにもカーブしたシャフトをもつものが増えてきた。カーブシャフトの利点は、急斜面に強いこと。急な雪面を登るときには、シャフト上部やヘッドを握ってピックを雪面に突き刺すようにすると登りやすいが、シャフトがカーブしていることがとてもやりやすい。

また、シャフト下部を握ってアイスクライミングのようにピックを突き刺すこともやるいやすくなる。一方、あまり斜面に強いところに行くことがないのであれば、シンプルなストレートシャフトのほうがなにかと使いやすい。一般的にはストレートシャフトを選んで、それで不足を感じるようになったらカーブシャフトを検討すればいいだろう。ストレートシャフトは汎用性が高いので、いずれにしても一本持っていておいて損はなく、カーブシャフトを買い足したとしても無駄にはならない。

体に合った長さ

ピッケルの長さはヘッドを持って立ったときにスパイクの先がくるぶしに当たるくらいとよくいわれ、技術書などでそう書かれているものも多い。

しかしポールの使用が一般的になった現在では、ピッケルを歩行時の杖として使う意味は薄れてきており、前述の基準でピッケルを選ぶと、やや長すぎる場合が多いようだ。長いピッケルは傾斜がゆるい場所や平坦地ではポール代わりにつかえて便利だが、傾斜が強くなってくると取り回しにくく、持てあましてしまう。手足の長さや体格にもよるが、一般的には60cm前後が使いやすい。小柄な男性などは70cm前後のもののほうが使いやすいだろう。

重さにもこだわる

ピッケルに関しては、軽さは正義とは必ずしもいえないところがある。ピッケルの最大の存在価値は滑落したときに落下を止めることことにあるわけで、軽すぎるピッケルでは打撃力が足りずに弾かれてしまうことがあります。ヘッドにある程度の重さがあるもののほうが打ち込みはしやすい。

とはいえ、ピッケルは行動中ずっと手にもっているものでもあるので、あまりに重いものも考えもの。重要なのは数字上の重量よりも、持ったときの重心バランス。ゴルフクラブのようなもので、重くても打撃力が出にくいものもあれば、その逆もある。ここはカタログではわからないので、手にとって確かめよう。

ブレードの形

ピックの形はモデルごとの大きさな差がないが、ブレードの形や大きさはかなり異なっています。三角形をしたものが基本だが、太かったり細かったり、角が立っていたり丸まっていたり、大きかったり小さかったりとさまざま。ここは用途によって変わってくるのでどれがいいのかは一概にはいえないところ。当然、大きめで角が立っている鋭いもののほうがカッティングなどの作業性はいいが、カッティングを多用しない人には大きすぎるブレードはじゃまになってわずらわしい。

実際、カッティングが必要なシーンは雪山登山の現場でそれほど多いわけではないので、携行時のストレスのなさを優先するという考えも十分成り立つ。機能的な観点から選ぶよりも、ブレードはヘッドを持ったときに常に手にふれる場所であるので、持ちにくかったり角が当たって痛いなどということがないほうがむしろ重要といえる。だからやはりここも実際に手に取って確かめてみるというアナログな基準を第一に選んだほうが間違いは少ないといえる。

ピックの形状

ピックは、ピッケルの一番重要ともいえる部分で、ここがピッケルの性能や用途を大きく決定します。

鋭く尖ったもののほうが雪や氷への刺さりはよく、ピック本来の役割としては優れています。厚さも刺さりのよさに大きく影響し、分厚くエッジが鈍角のものはやはり刺さりにくい。

とはいえ、これらはクライミングをするなら重要なポイントだが、縦走登山ではピックを刺して使うシーンはそれほど多くなく、刺さり具合に気を遣う必要はあまりないともいえます。実際、縦走用モデルとして売られているもののピックはあまり鋭くないものが多い。鋭すぎるピックはケガをしやすかったり不意に引っ掛けたりしやすいので、意図的にエッジを甘くして取り回しのしやすいさのほうを優先しています。

鋭さのほかに見るべきポイントは形状。縦走用のものは垂れ下がるようなゆるいカーブを描くピックが多く、クラミング向きのものになるほどカーブが上向きになり、剃るような曲がりになる。バリエーションルートを行なうような厳しい登山をするのなら、こういうものを選ぶのもいい。バリエーションモデルのなかには、モジュラーヘッドといって、ボルトでピックを交換できるものもある。用途に応じて縦走用ピックとリバースピックを使い分けられる。

ピッケルの携行には注意

ピッケルは凶器。鋭く尖った刃物のようなものなので、不用意に取り回すと非常に危険です。
とくに問題になるのは、バックパックに外付けして電車やバスなどに乗るとき。背負いっているものの状態は自分ではわからないので、振り向いた拍子に近くにいた人を傷つけてしまうこともあります。さらに、尖った部分で自分のバックパックに穴を開けてしまうようなことも。
そうしたことを防ぐために、移動中はピックとスパイクにはカバーを付けておきましょう。カバーは付属している場合もあるが、ない場合はピッケル購入時にいっしょに購入しておこう。

ピッケルの強度 テクニカル(T)とベーシック(B)

一般的な登山で、ピッケルのシャフトが折れたというような話はほぼ聞いたことがありません。よほどヘンな使い方をすれば折れたり曲がったりすることもあるだろうが、少なくとも縦走登山で普通の使い方をするかぎり、ピッケルの強度に気を使う必要はほとんどないだろう。

ただしアルミの軽量モデルは別。これらは軽量化を優先して強度を犠牲にしているので、大きな力を加えるとシャフトやピックが曲がったりするおそれがあります。軽量モデルは、あくまで緊急用ということを認識し、その限界を知ったうえで使える上級者向けです。そして、クラミング用途に使う場合も強度は気にする意味があります。よほど先鋭的なミックスクラミングは別として、折れるような心配はないが、ピックのエッジがすぐに甘くなったりするような違いはあります。

ただし見た目からはわからないので、いくつか使ってみて判断する。ピッケルの強度には規格があり、シャフトやピックに「テクニカル(T)」や「ベーシック(B)」と書かれている。縦走用の多くはBタイプだが、ハードに使用するモデルは、より強度の高いTタイプを採用していることが多い。

テクニカル(T)

  • ベーシックの1.5倍の強度
  • ベーシックよりも重い
  • ロープでの支点確保ができる

ベーシック(B)

  • 一般的な縦走登山には十分な強度がある
  • テクニカルよりも軽い

持ちやすさ

縦走用ピッケルを選ぶとき、もしかしたらいちばん重要なポイントかもしれない。

歩行中、ピッケルはヘッド部分を持つことになる。そのとき、ヘッドの形状によって持ちやすさはモデルごとにずいぶん異なります。些細な違いとはいえ、行動中ずっとここを持っていることを考えると、手に合わないヘッドは割と無視できないストレスになります。

縦走用ピッケルでは、選ぶ際にもっとも重視すべきポイントはここだろう。持ちやすさに影響する要素はいくつかあり、いちばん大きなものはブレードの形状。へんに角が当たると大きさが手に合わないものは避けたほうがいい。ここは一番触れる機会が多いので、気にする価値があります。ブレードだけでなく、ヘッド周りのエッジも持ちやすさに影響する。鋭い部分が手に当たるようだと痛いし、分厚い手袋をしていたとしても引っかかることが増えてストレス。

小ぶりで魂魄なヘッドは手のなかで遊んでしっかりと握ることができないことがあり、逆に出っ張った部分があって部分的に当たって握りにくい場合もある。

このあたりは手の大きさみよっても感じ方は異なるし、好みも大きく関係する。どこが重要な部分とはいえないなので、これもやはり手にとってしっくりくるものを選ぶのがベスト。

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てくてくの人
登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。