一口に冬季登山・雪山といっても、ときに半袖で歩くことができる残雪期から、マイナス20度を下回る厳冬期まで、環境は大きく異なります。そんな環境下で、服装を誤ると命に関わります。
雪山のウェアリングは、その基本は夏と同じように重ね着。汗をかかない、冷やさないが原則です。
そこで、今回、雪山登山の初心者のための服装・レイヤリングのコツを紹介。雪山の重ね着の重要性をはじめ、アンダーウェア、ミドルウェア、アウターウェアの役割、季節・山の状況によるレイヤリング、3種類のウェアの選び方などまとめています。
冬も重ね着が重要
雪山のウェアリングは、いかに汗をかかないかが最大のポイントになります。
歩きだしは特に注意し、これでは寒いんじゃないかくらいの薄着でスタートします。とりわけ、雪に慣れない人は足元がおぼつかず、運動量が増えて汗をかきがちなので気をつけて登りましょう。
そんな雪山のウェアリングの鍵となるのは夏山同様、重ね着。そして、汗をいかにすばやくウェアの外に逃がすかが、夏山以上に重要になります。アンダーウェア、ミドルウェア、アウターウェアを重ねます。
状況に応じて、アンダーを2枚重ねた上にアウターを着てみたり、アウターウェアなしで歩いてみたり、運動量に合わせてこまめに脱ぎ着し、またファスナーがあれば開け閉めをして、衣服内の温度を調節し、極力汗をかかないように気を配りましょう。
ウェアリングの基本
アンダーウェア、ミドルウェア、アウターウェアが果たす役割を考えていきます。それぞれの長所を把握して小まめに脱ぎ着し、暑くても寒くもない状態を生み出すことが、ウェアリングの鉄則です。
3種類のウェアの役割
アンダーウェアの役割は、汗をすばやく吸収し、ミッドウェアへと逃すこと。つまり肌をドライに保つことが重要になります。ミッドウェアの役割は吸収した汗を蒸散させつつ、保温すること。ここでは、速乾吸湿性とともに保温性を求められる。アウターウェアの役割は風雪から身を守りながら、ウェア内のムレを透湿することです。
この基本を踏まえたうえで、ネックウォーマー、バラクラバなどの小物も駆使しながら、状況に合わせて体温調整を行ないましょう。
雪山の環境は登山者にとって非常に過酷です。適切なウェアを着て体を守らなければ、たちまち低体温症に陥って、命かかわります。雪山のウェアは、ピッケルなどと同じく、重要な装備のひとつと言えます。
雪山では、おもに3種類のウェアを組み合わせて着ることによって、これらの機能をもたせるようにしています。
雪山のウェアに求められる機能
- (1)防風、防雪、防水
- (2)防寒(保温)
- (3)吸汗、吸湿
- (4)身体の保護
アンダーウェア:汗を吸収し、汗をドライに
体は汗をかくことで体温を下げようとする。アンダーウェアの役割は、この汗を処理すること。アンダーウェアの素材は化繊とウール、それらのハイブリッドに大別できる。化繊は汗をすばやく吸収拡散するスピードが特徴。乾かす過程で生じる気化熱によりひんやり感を覚えることも。ウールは吸収拡散のスピードでは劣るものの保温性能に優れており、汗冷えを感じにくく、抗菌消臭性能がある。ハイブリッドモデルは両者の長所を上手に生かしている。
ベースレイヤー
下着で、いちばん下に着るウェア。ロングスリーブシャツ、ロングタイツのほか、下着のパンツなどもある。皮膚からは常に蒸気や汗が出ているが、それを吸い上げて外側に排出するのがアンダーの役割である。
ミドルウェア:**熱気を外へ、温かさをキープ
アンダーウェアの上に重ね、レイヤードの核を担うのがミッドウェア。汗を逃しながら保温する役割を務めている。ミッドウェアは薄手を2枚用意すると使い勝手がよい。ファスナー付き、フード付きを一枚ずつ用意するとさまざまな状況に対応することができる。パンツはもたつかないよう、ストレッチ性がある薄手を選ぶとよい。天候によっては省略し、アンダーウェアの上にアウターウェアを重ねることも。
ミッドレイヤー
中間着で、ウールやフリース、そのほかの化繊素材でできたシャツ、ジャケット、パンツなど。体を守る意味では防寒のために着るのだが、雪山で行動中に着ることもポイントになる。つまり、保温性が高すぎないことや、アウターとの擦れが生じないないなどの点も重要。
アウターウェア:暴雨、暴風、防雪
アンダーウェア、ミッドウェアと伝わってきた衣服内の水分やムレを逃しながら、風雪から身を守る砦となるのがアウターウェア。レインウェアと同等の透湿性をキープしながら、ピッケルやアイゼン、氷や岩壁との摩擦が考えられる肩やひじなどのパーツに補強を施し、よりハードなつくりになっている。ポケットのデザイン、フードの大きさや視認性、ベンチレーションの有無などが選ぶ際のポイント。
アウターシェル
日本語でいえば上着。雪山用のジャケット、ヤッケ、パンツが該当する。防風、防雪、防水の機能を受け持つ。シェルとは殻の意味で、外の環境からの影響を遮断して内側の体を守るもの。
ウェアリング(重ね着)で体温調整
3種類のウェアを雪山では重ね着していきます。積雪がある状態では最上部のアウターは脱げないので、保温力の調節はミッドレイヤーで行なうことになります。その際に、ミッドレイヤーを薄手と中厚着の2種類用意しておくと便利です。
- (A)薄手の中間着+アウター
- (B)中厚手の中間着+アウター
- (C)両方を重ね着+アウター
- (D)アンダーに直接アウター
実際の行動中にはそれほど細かく脱ぎ着することはないので、基本的に(A)または(B)のパターンで通すのが普通です。(C)や(D)にするのは、特別に暖かいか寒い場合になります。
雪山では、レイヤリングでカバーできる温度幅は限られます。歩き方の調節によって汗が出ないようにするのがとても重要です。
どんな高機能なウェアも、使い方悪ければ機能しません。
季節、山の状況に合わせたウェアリング
ウェアの基本を踏まえたら、「低山」「残雪期」「厳冬期」それぞれの状況で、どんなウェアリングが適切なのかを考えていきます。アンダーウェア、ミドルウェア、アウターウェアを中心に、適宣、足し引きしながら、ちょうどを見極めていきましょう。
低山
防寒に気をつけながら組み立てを考えよう。樹林帯を抜けないならば、防風はそれほど考えなくてもよい。そして、アウターウェアをレインウェアで代用すると装備の軽量化を測ることができる。風のない森の中をとことん歩くと、ゆっくりでも汗ばんでしまう。ファスナーの付いたアウターウェア、ミッドウェアを着用し、汗をかかないよう温度調節に努めよう。
残雪期
晴れると、上からの日差しに加えて雪面からの照り返しい悩まされるのが残雪期。それでいて吹雪けば厳冬期と同じ防寒が必要になる。汗をかいた後に冷えることを想定し、アンダーウェアの替えを必ず準備。ミッドウェアは厚さの違う薄手を2枚用意しておくと、環境変化に対応しやすい。インサレーション、アウターウェアは厳冬期と同じものを。帽子も夏用と冬用をそろえておこう。
厳冬期
防寒対策を一番に、汗をかかないよう対策を考える。ラッセルをするとなると汗をかきやすいうえに、後ろにまわるととても寒い。アンダーウェアは複数用意し、なかにウール製をしのばせておきたい。厳冬期は頭部の保温が特に大切。烈風にさらしているとすぐに思考力が低下するので、ミッドウェアはフード付きを。アウターウェアにはベンチレーションが付いたものを、インサレーションは温かいものをチョイスしよう。
ベースレイヤーの選び方
雪山登山で大敵となる濡れは、雪や雨だけでなく、自分自身の体も原因になります。つまり、常に発生している皮膚からの汗と蒸れがウェアを濡らし、そのまま滞留する時間が長いほど、体を冷やしてしまう。
雪山用のベースレイヤーは、この濡れの問題を解決するもの。
"機能"で選ぶ:吸汗(吸湿)速乾性が重要
ベースレイヤーに必要な機能は、何よりもまず濡れても暖かいということです。それを実現するために、汗や蒸れをすばやく吸収して外側に排出していくという機能、つまり、吸汗(吸湿)速乾性が重要です。
保温性の面では、生地の厚みでだいたい3ランクに分けられ、保温力に差があります。
基本的に薄手は春〜夏用、中厚手は秋〜冬用、厚手は冬用と考えればよい。一般的な雪山登山で幅広く使いたい場合は、中厚手がいちばん対応しやすいです。
他にも、素肌に着るための肌触りのよさ、フィット感、伸縮性など、いろいろな機能を持つアンダーウェアがあるので、自分の好みで選ぶと良い。
"素材"で選ぶ:化繊とウール
ベースレイヤーの素材は、化繊とウールに大別されます。
化繊素材はフリースにも使われるポリエステル系が中心で、高い速乾性を持ちます。早く乾くという性質は、繊維自体が水分はほとんど含まないことで実現されている。着用感の面では天然繊維のようにはいかず、違和感があるとか、肌に合わないという人もいます。しかし、年ごとに改善されてきています。
ベースレイヤーはウールの人気が高いです。ウールの吸汗(吸湿)性は繊維自体が水分を吸うことで実現されるので、化繊のように速乾性ではありません。しかし、ウールは吸湿すると発熱する性質のため、多少濡れていても暖かい。このため、大きく汗をかくような状況でなければ問題ありません。
あと、化繊にウールを混紡したハイブリッド素材のものがあります。肌側には水分を含まない性質の化繊、外側にウールという組み合わせが多く、化繊とウールの弱点をそれぞれ補い合ったものになっています。
ミドルレイヤーの選び方
ミドルレイヤーのウェアは、アンダーの上に重ねて行動着として着ます。
シャツ、ジャケット、パンツ類はさまざまな種類があり、自分の好みやファッション性なども重視して選び、着ることを楽しむことができます。雪山のウェアとして必要な機能を押さえつつ、適切なものを選びたい。
"機能"で選ぶ:保温性と吸汗(吸湿)速乾性
ミッドレイヤーに必要な機能は第一に保温性だが、それに次いで吸汗(吸湿)速乾性も重要です。つまり、ウェアとして要求される機能は、ベースレイヤーとほぼ同じです。
ただし、化繊100%のウェアは水分を溜め込まずに通過させるだけなので、汗や蒸れの量が多すぎるとうまく拡散できない。汗や蒸れの処理は、ウールのように化繊自体が水分を吸汗する素材のほうが適しています。
また、行動着として着るため、フィット感、伸縮性、生地の強さなども重要な選択ポイントになる。
"素材"で選ぶ:生地一枚、インサレーション
上半身のミッドレイヤーは、生地一枚のものと、インサレーション(中綿)で保温するものがあります。
一枚生地は、素材としてはベースレイヤーと同じく、化繊、ウール、ウール混紡の3種類があります。化繊製の代表的なものはフリースがあります。パンツは中厚手の化繊素材で、速乾性のものがよい。ストレッチ素材や立体裁断などで、動きやすいものを選びたい。
インサレーションは、軽量なダウン製品が代表的。また、保温力・コンパクト性ともダウンに迫る化繊の中綿製品もあります。ダウンは濡れに弱いとされており、汗をかくような状況で着ないことと、行動中は上にアウターを着るなど濡らさないことが大切です。
"ウェアの形式"
上半身のウェアは、前開き部分のないクルーネック、襟元が途中まで開くジップアップ、前が前回になるボタンシャツ、ジャケットなどの形式がある。ボタンやファスナーの部分が少ないほどコンパクトで、保温力も高く、重ね着のしやすいウェアです。
アウターレイヤーの選び方
いちばん外側に着る3枚目のウェアがアウターシェルで、雪山用のヤッケ上下が該当します。無雪期の山で使うレインウェアに似ているのだが、雪山の過酷な環境から体を守るため、いろいろな構造をもった高機能なウェアです。
"機能"で選ぶ:透湿性防水機能
アウターは、ベースレイヤー、ミドルレイヤーのウェアとはまったく違う防雪、防風、防水といった機能を持ちます。
防雪のため、ジャケットのフードは大きく、袖口は充分な長さまで届き、コードやベルクロで絞ると風雪をシャットアウトします。パンツの前立ては長く、雪中で転んでも腹から雪が入らない。このような密閉性の高いウェアの構造は、高い防風性にもつながります。雪山ではある程度の強風のなかを行動することは多く、風からしっかり体を守るウェアは必須です。
防水性の面では、生地の中に透湿性防水素材を組み込むで、完全防水を実現しています。このタイプをハードシェルという。完全防水であると同時に、内側のウェアから運ばれてきた水分や蒸気は、外へ発散させてゆく機能も持っています。
"素材"で選ぶ:2レイヤーか3レイヤー
アウターシェルは化繊製だが、生地の中に透湿性防水素材が組み込まれているのが特徴です。
この素材によって、雨などの水分はシャットアウトされ、ウェアの内側にこもった蒸気は、外へ排される。外部からも内側からも濡れを防ぐことで、サラッと乾いた快適な状態を維持し、登山に集中することができます。
透湿性防水素材のフィルムは壊れやすいので、化繊生地を張り合わせたものを使っている。生地・裏地の間にフィルムを挟んだものが3レイヤー、表地だけ張り合わせたものが2レイヤーであります。
2レイヤーのほうがコンパクトになるが、3レイヤーのほうが強く長もちします。
アウターシェルのウェアは高い買い物になるので、軽量・コンパクト性と、動きやすさなど必要な機能さえしっかり押さえ、購入しやすい価格のものを選びましょう。
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。