富士山に登るときに一番迷うのが服装かと思います。
日本一標高の高い山、富士山。真夏でも標高3776mの富士山の山頂は7.5℃しかありません。東京の冬の平均気温とほぼ同じで、とても厳しい環境です。
富士山に快適に登るには、登山の服装の基礎知識や選び方がとても大切になってきます。
ここでは、富士登山に適した服装の種類・選び方を解説します。登山初心者でも適切にウェアを選べれるように、登山服の基本であるレイヤリング、それぞれのウェアの特徴、そして選び方などを丁寧にまとめました。
富士登山に適した服装の基本 レイヤリングで快適に
登山のウェアは主にベースレイヤー、ミドルレイヤー、アウターに分けて準備します。
そして、それらをレイヤリング(重ね着)することでさまざまな状況に対応できるようになります。ここではそれぞれの役割を説明していきます。
ベースレイヤー(肌着・行動着)
標高が高い富士山でも行動中は体温が上がり暑くなります。そんなときはベースレイヤーで行動します。主な役割は、肌面に発生した汗を吸い上げて表面で拡散蒸発させることです。
そのため、ベースレイヤーは肌面の真上に着用します。吸汗速乾の機能以外に、ドライ系レイヤーと呼ばれる汗戻りを防ぐアイテムや、サポートタイツといった筋肉をサポートしてくれるものもあります。吸汗速乾性を第一に考えて、そのほかの機能はオプション的に考えて取捨選択しましょう。
ミドルレイヤー・保温着(肌寒いときの中間着)
ミドルレイヤーの役割はふたつあります。
まずはベースレイヤーで吸い上げた汗をミッドレイヤーに移して、表面で拡散させること。こうすることで汗の蒸発が促進される。それとは別に重要なのが保温の役割です。標高が上がり、肌寒くなってきたときなどに着用するのがミドルレイヤーです。休憩時に羽織る保温性があるので、体温が上昇しすぎるオーバーヒートを起こすことなく、快適に行動することができます。
アウター・レインウェア(寒いとき、悪天候)
風が吹いてきたときや雨が降ってきたときなど、衣服のいちばん外側で体を守ってくれるのがアウターです。さらに、アウターを着ることで保温性もアップします。アウターとして風を防ぐウィンドブレーカーやソフトシェルといったモデルもありますが、レインウェアがあればそれらの機能をすべてカバーすることができます。明け方など気温が低いときにもアウターを着用すれば、体温が内側にこもるので寒さを防ぐことができます。
服装 | 説明 |
---|---|
ベースレイヤー(肌着) | 下着、シャツ、靴下など。綿ではなく化繊のもの、靴下は厚手のものを |
ミドルレイヤー(中間着) | ジャージ、ウインドブレーカー、フリースなど。着て歩いても暑くないもの |
アウター・レインウェア | 上下に分かれたタイプ。コンビニの安いカッパは破れるのでNG |
保温着 | ダウンジャケット、手袋、ネックウォーマーなど。ダウンジャケットは薄手のものが荷物にならないのでおすすめ |
パンツ&タイツ | ジャージの様にストレッチ性があり足が上げやすいもの。スカート、半ズボンの場合は下にタイツ |
ベースレイヤーの選び方
ベースレイヤーは、抜群の吸汗速乾性で肌面をドライに保つ役割があります。上半身では、汗を吸い上げて拡散させ、素早く乾かす吸汗速乾素材がベスト。綿のように乾きにくい素材はNG。
紫外線対策に長袖もあり
半袖と比べると涼しさが減少するが、腕まで覆う長袖のベースレイヤーを選択するのもあり。長袖を着用すれば紫外線の影響をシャットアウトすることができます。日焼けを気にする方におすすめですね。半袖でも、アームカバーを併用すれば紫外線の影響を防ぐことが可能です。
素材は化学繊維 or ウール
素材はポリエステルなどの化学繊維か天然素材のウールに大別される。それぞれのメリットとデメリットを把握しよう。化学繊維は速乾性に優れますが、嫌なにおいが発生しやすいです。ウールの速乾性は化学繊維に劣りますが、保温性や防臭性が高いといえます。好みに応じて選びましょう。
一枚で着用できるデザインを
ベーレレイヤーのなかには、いかにも下着のようなデザインとフィット感のものもある。ベースレイヤーだけでも行動できるように、一枚だけで着用できるデザインを選ぶといいでしょう。あまりにも下着のような見た目や、肌が透けて見えるようなものは避けたほうが無難です。
ミドルレイヤーの選び方
ミドルレイヤーの役割は、汗を移し、温かさを提供すること。化繊やウールのロングシャツ、ジャージ、ウィンドブレーカーなどがおすすめ。
おすすめはフード付き
フードの有無はデザインだけでなく、得られる機能は把握してから判断したい。おすすめはフード付きのモデルです。フードをかぶるだけで頭まわりを温かくできるほかに、全体の保温性も向上します。さらにファスナーを上げたときに口元まで覆うモデルは、砂ぼこりも防ぐことができるのです。
ベターはタイトフィット
ジャケット感覚でミッドレイヤーを選ぶと、大きめのサイズを手に取ってしまうかもしれない。窮屈に感じない程度に体のボディラインにフィットするサイズを選びましょう。あまりにゆったりした着心地だと、ミッドレイヤーの重要な役割である保温性を充分に得ることができません。
求める保温性で厚さを選ぶ
ミッドレイヤーに求める保温性は人によってバラバラ。寒がりの人は厚手のモデルを選ぶといいでしょう。逆に暑がりの人は薄手のタイプがおすすめです。ミッドレイヤーといってもメーカーやモデルでさまざまな商品があるので、必要とする保温性が得られる厚さのアイテムを選びましょう。
アウターレイヤーの選び方
防水+透湿性を必ずチェック
レインウェアには必須ともいえる機能がふたつある。まず欠かすことができないのが防水性です。それに加えて、透湿性があるモデルを必ず選びようにしましょう。ビニールガッパのように防水性だけの商品を着用すると、内側で発生した汗や湿気がこもることになり、非常に不快です。
軽くて薄いモデルもあり
レインウェアの生地には、ゴワゴワしたいかにも丈夫そうなものから、透けるほど薄いものがある。生地が薄いモデルは耐久性が高いとはいえません。しかし、枝などに引っ掛ける危険性がまったくない富士山では、軽さを重視して薄手のレインウェアを選んでもいいでしょう。
上下セパレートのものを選ぶ
今では上下が分かれているレインウェアが主流になったが、一枚の生地をかぶるだけのポンチョと呼ばれる商品も存在する。富士山では風によって雨が下から吹き込んでくることもあるので、必ず上下セパレートのタイプを選びましょう。ポンチョを着用する場合でもレインパンツは必須です。
保温着・インサレーションの選び方
保温着・インサレーションは休息時に寒さから体を守ってくれます。高山や寒い時期の登山にでかけるなら、必ず装備したいウェアです。保温着は、保温力以外にも、行動中に着ることが少ないので、コンパクト性も重要になってきます。
選択肢はダウンか化繊綿
保温着の中綿に使われる素材は、ダウンか化繊綿に大別できる。ダウンは軽くてコンパクトになりますが、水に濡れると保温力が低下してしまうデメリットも。化繊綿は重くかさばる傾向にありますが、濡れても保温力は変化しません。どちらも選ぶかは好みが分かれます。
重くてかさばるフリースは避ける
保温着としてフリースも市場に存在する。一昔前まで保温着といえばフリースが主流でした。しかし近年では、ダウンや化繊綿を使った軽量・コンパクトなモデルが増えてきたので、今の時代に重くてかさばるフリースを選ぶメリットは、価格帯が手頃というほかにはないでしょう。
厚さ薄くてもOK
保温着は封入されている中綿の量によって保温力が大きく異なる。冬山に持っていくようなモコモコの保温着は必要ありません。軽量でコンパクトに収納できる薄手のモデルで充分です。保温性は、保温着のほかにミッドレイヤーやアウターも活用して、トータルで確保すると考えましょう。
パンツ&タイツ
上半身同様に、速乾性でストレッチが立体裁断などで動きやすいロングパンツが定番。また、サポートタイツがあると、筋肉の動きをサポートしてくれるので、快適に行動できます。
短パンでも大丈夫
登山用のパンツは、転倒などに注意すれば短パンを運んでも大丈夫です。夏では短パンのほうが快適に行動できます。ただ、寒くなることも想定して保温性のあるタイツとの組み合わせがおすすめです。長ズボンにも短パンにもなるコンバーチブルタイプは最適かもしれない。
コットン混紡はNG
パンツを選ぶポイントは機能だけでなく素材が大事です。パンツは動きやすければどんなモデルもいいでしょう。しかし、コットンが含まれているものはNGです。汗を吸うと乾きにくい素材なので、低体温症の原因になります。20%以上コットンが使われているモデルは避けましょう。
サポートタイツで楽になる
足に着用する装備には、パンツのほかにサポートタイツというアイテムもあります。腰やひざに不安を抱えている方は、筋肉の動きをサポートしてくれるサポートタイツを積極的に活用するといいでしょう。体力がある人でもサポートタイツをはけば、いつも以上に快適に行動することができます。
シーンに合わせた服装・レイヤリングのイメージ
薄手のものを何枚も重ねて体温調節するレイヤリングが、山の着こなしのコツです。
ここでは、シーンに合わせたレイヤリングのプランを紹介します。
登りはじめの服装
気温が高い間はショートパンツで快適に。足元が気になるときはスパッツをプラスしよう。
気温が下がってきたらフリースを重ね着したり、パンツをロングにする。帽子やネックウォーマーで日焼け対策もしっかりしておこう。
日焼け対策はしっかりと。簡単に取り外しのできるネックゲイターやアームカバーは、着け外しが簡単で体温調節にもなります。土埃が気にあるときはネックゲイターをマスクのように使うと良い。
登りはじめに必要な服装の一例
- 半袖Tシャツ
- 長袖Tシャツ
- パンツ & ロングタイツ
- ネックゲイター
- アームカバー
雨天時の服装
着ている服の上にレインウェアの上下を着ます。手が冷えると辛いのでグローブもしておきましょう。レインウェアを着るときは、中に着るものは少し薄めが快適です。襟や手首、裾から雨が入らないようにしっかり閉じよう。
透湿性が高くストレッチ性にも優れるハイスペックレインウェアなら、雨がやんでも着たまま登り続けることができます。撥水性のボトムスを着用していてもレインパンツは必携。雨が激しくなる前に上下とも着用しよう。
雨天時に必要な服装の一例
- レインジャケット
- レインパンツ
- 手袋・グローブ(防水・防風性があると良い)
山小屋で休憩・ご来光を見に行く時の服装
真夏の下界からいきなり真冬の世界へ。パンツはロング丈にして、フリースとダウンを重ね着。それでも寒ければレインウェアを上から重ねると保温力アップになる。帽子や手袋も忘れずに。
2着ある手持ちのダウンから厚手のほうをセレクト。スタッフサックに詰めればかなり小さくなる。また、フリースは保温性の高いものを購入したので、荷物の量によっては、薄手のほうのダウンを選んでもいいだろう。
休憩・ご来光待ちの時に必要な服装の一例
- ダウンジャケット(保温着・インシュレーション)
- フリース(ミドルレイヤー)
- ロングパンツ
- ロングスパッツ
- ニット帽
- 手袋・グローブ
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。