登山中に出会いたくない虫といえば、スズメバチ。日常生活でも遭遇する可能性が高い危険生物です。しかも、クマや毒ヘビに比べて最も被害が多く、登山中に刺されるとショック症状により命を落とす危険もあります。
そのため、スズメバチに刺されないためにはどうすれば?万一刺された場合はどう対処すべき?など、スズメバチへの対策を学んでおくことがとても大切です。
そこで、今回、登山中のスズメバチ対策・対処法を紹介。スズメバチの被害情報や生態をはじめ、スズメバチの回避法、刺されてしまった後の対処法、対処に必要なグッズなどをまとめました。
重要なのは、遭遇しない、刺されないことです。スズメバチの生態から回避法を学び、登山中にスズメバチに刺されないようしましょう。
スズメバチの基本とは? 登山者が知っておきたいスズメバチの生態
クマ被害よりも多い!ハチの被害はどのぐらいでているか
ハチ被害は、日本での年間死亡者数はクマ被害よりも多いです。国内でのハチ刺傷による年間の死亡者数と、クマや毒ヘビおよび毒トカゲによる死亡者数を比べると、大幅に上回っています。
ハチはクマや毒へビよりも、もっと身近で、最も危険な生物です。
毎年20人ほどハチ刺傷により死亡している原因は、アナフィラキシーショックという、重度の全身性のアレルギー症状によるものになります。後ほど詳しく解説します。
なんと16種類!!注意すべきスズメバチの種類とは
登山者が注意すべきスズメバチは「クロスズメバチ」です。
日本国内には16種類のスズメバチが存在します。その中でも危険とされているのが、最大種で毒性も高い「オオスズメバチ」と気性が荒く攻撃的な「キイロスズメバチ」です。
加えて、登山者が特に気をつけたいのが、別名地蜂とも呼ばれる「クロスズメバチ」です。前述の2種類に比べて小型で攻撃性は高くないが、登山者が襲われる事故が起きている。これはクロスズメバチが土中に巣を作る習性があり、登山者が知らずに巣を踏んでしまうからです。巣が襲われたと思って大群で登山者に襲いかかるため、事故に発展しやすい。
山で気をつけるべきスズメバチ
- オオスズメバチ:
スズメバチ類のなかで最大種。体長は40mmを超えるものもいる。強力なアゴと太い毒針をもつ。毒性も強く、しかも毒液の量も多い。 - キイロスズメバチ:
体長は18〜24mmほど。濃い黄色の体が特徴。気性が荒く攻撃的。巣の近くを通るだけで刺されることも。 - クロスズメバチ:
体長は11〜18mm程度でスズメバチのなかでは小型。毒性はほかのスズメバチに比べて強くないが、大群で襲われると危険。
ハチはどこに巣を作るのか
種類によって異なりますが、オオスズメバチは、林の中や木の根元の洞などに巣を作る傾向があります。キイロスズメバチは茂みや樹木の枝、木の洞など、少し高い位置に巣を作ります。また、民家の軒下や橋の下などに作ることもある。
クロスズメバチは土の中に巣を作ることが多い。このクロスズメバチの土中の巣を、登山者が刺激してしまい、刺されてしまう事故が多い。いずれのスズメバチも、巣から一定の範囲内への侵入や、巣を揺らすなどして刺激すると攻撃性が高まります。
アナフィラキシーショックはなぜ起こるのか
なぜハチに刺されるとアナフィラキシーショックが起こるかは、抗原抗体の過剰反応が原因となります。
ハチ刺傷によるアナフィラキシーは、発症後、数分から数時間いないに皮膚や粘膜、呼吸器など、全身の複数の臓器にアレルギー症状が出る反応を言い。なかでも、血圧の低下や意識障害などを伴った危険な状態をアナフィラキシーショックと言います。ハチ毒のほか、特定の食物や薬などでも発生します。アレルギー反応には即時型と遅発型があるが、アナフィラキシーショックは、即時型に分類されます。
ハチに刺されると、刺された瞬間に激しい痛みを生じます。その後、刺された箇所が赤くなり、腫れを伴う。これは抗原(アレルゲン)が体内に侵入したときに、体がこれを排除するための反応になります。多くの場合は、局所的な反応にとどまり、数時間から数日で腫れが引き、自然に回復します。
しかし、目には見えないが体内では、いろいろ起きている。簡単に言うと、抗原が体内に入ると、ある細胞が働いて、次回の抗原の侵入に備える免疫が作られます。そして、同じ抗原が再び体内に入ると抗原抗体反応が起こります。これが過剰に反応しすぎると、自分の体を気づけるアレルギー反応が起こり、様々な症状がでます。
ハチによる刺傷は2回目が危険とされるのはこの過剰なアレルギー反応が原因になります。
登山中にハチに刺されないための回避法
登山道を踏み外さない、むやみに木々をつかまない
ハチは巣を刺激されると攻撃性を増す。クロスズメバチは人の往来が多い踏み固められた道には巣を作らないので、登山道を踏み外さなければ巣を刺激する可能性は低くなる。また、木々や岩陰に巣を作ることもあるので、むやみに手で木々をつかんだり、穴を覗き込んだりしないこと。
明るい色の服を着て、肌の露出を防ぐ
ハチは巣の近くで動く黒い物体に敏感に反応すると言われています。「ハチの天敵のクマが黒いから」など諸説あるが、登山中の服装は淡く明るめの色をチョイスしたほぐあいい。白や黄色など彩度が高めの色がおすすめ。彩度が低いとハチには黒に見えるのでNG。
また、できるだけ肌の露出を少なくしておくこと。帽子をかぶる、首にタオルを巻くなどすると、刺されにくくなる。
匂いの強い整髪料や香水などはつけない
ハチは匂いでコミュニケーションをとっている。門番のハチは巣の周りに敵が近づくと、警報フェロモンの匂いで仲間のハチに危険を知らせている。
警報フェロモンはハチの種類によって異なるが、これに似た甘い匂い成分が含まれるものを登山者がもっていると、ハチが反応してしまい、攻撃してくることがある。匂いの強い香水や化粧品、整髪料などは避けたほうがよい。
遭遇しても手で振り払ったりしない
スズメバチが羽音を立てながらホバリングし、カチカチと顎を鳴らしてくるのは威嚇行動。もし近づいてきても、手で振り払ったり、大きな声を出したりしないこと。 攻撃されたと感じ、仲間を呼び寄せて襲いかかってくる可能性があります。遭遇したら、身をかがめながらその場からゆっくりと離れよう。可能ならそのとき、頭や肌の露出部を服やタオルで保護するといい。
襲われたら姿勢を低くして逃げる
ゆっくりと動いたにもかかわらず、運悪くスズメバチの最初の一撃をうけてしまったら、一目散にその場から走って離れることです。
追いかけてくる距離は、オススズメバチで巣の周りから80mほどと言われています。少し身をかがめて、できるだけ素早く遠くへ逃げよう。
また、一度攻撃的になったスズメバチはしばらく周辺を警戒しているので、来た道を戻らないようにしましょう。
登山中にハチに刺された後の対処法
毒を吸い出し、傷口を洗う
安全な場所まで逃げてきたら、体内に取り込まれるハチ毒の量をできるだけ減らすため、毒を吸い出しましょう。爪を使って、刺された箇所をつねって毒を絞り出す。そのとき市販の吸引機(ポインズンリムーバー)を利用するのが効率的です。
毒を出した後は、消毒のため、また、残った匂いによる再襲撃をさけるため、きれいな水で傷口を洗うこと
- アラピラボ / ピイズンリムーバー アスピブナン
- 毒液や毒針を吸引するポイズンリムーバー
・サイズ:直径26mm、最大部49mm、長さ118mm
・ケースサイズ:55×145×35mm
・重量:96g(ケース含む)
患部を冷やし、抗ヒスタミン・ステロイド軟膏を塗る
毒の回りを少しでも遅くするため、濡れタオルなどで、刺された場所の周辺を冷やす。
また、同時に抗ヒスタミン・ステロイド軟膏を塗る。市販されているもののなかでも、ステロイドの強いものが、痒みを抑えるのに良い。「毛虫やムカデ、クラゲに効く」とうたっている製品がハチ毒の痒みを抑えるのにも効くので、携行しておくといいだろう。
- 池田模範堂 / ムヒアルファEX 15g
- ステロイドと抗ヒスタミン薬のダブル処方かゆみ止め
・内容量:15g
・重量:27.2g
安静な状態に寝かせる
数分〜1時間以内にショック状態が出たら、あおむけに寝かせ、両足を高い状態を保つ。足を上げることで、心臓や脳への血流量を増加させることができる。ただし、嘔吐したり、意識がない場合、嘔吐物を喉に詰まらせたり、下が気道を狭くしたりして、呼吸困難を起こす危険があるため、横向きに寝かせましょう。
エピペンを使用する
エピペンは、別名をアドレナリン自己注射薬といい、専門的な治療を受けるまでの間に、アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療剤です。処方箋医薬品であるため、処方には専門医師の診断が必要になります。
あくまで補助的な治療剤なので、ショック症状が出た場合は、安静な状態にしてすぐに救助要請をするようにしましょう。
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。