夏の山を何度か登り、山を安全に登る「技術」「経験」「自信」を自分のものとすることができたら、いよいよ冬山にチャレンジしてみよう。
冬山は、一面を雪に覆われた銀世界や美しい霧氷など、夏とは全く違う特別な景色があります。しかし、真冬の寒さと雪は相当に厳しいです。その美しさの分だけ夏にない様々な危険が付きまといます。
そこで、今回、冬山を安全に楽しむためのポイントを紹介します。
冬山の魅力や夏山との違いをはじめ、登山適期、冬山の特徴、注意点、おすすめの山などをまとめています。
初めての冬山登山 どうやって始めればいいの?
冬山に慣れるには、夏に登ったことがある低山に、雪のある時期に登ってみるがおすすめです。標高の高い山に登る場合は、寒さや積雪などの環境条件が厳しい冬期ではなく、まず春期(残雪期)に登ってみましょう。
また、歩行技術など冬山登山に必要な技術も身につけておきたい。技術は、冬山登山の本やホームページなどを読んで独学で習得するほか、冬山講習会に参加することで学べます。
冬山の魅力とは
冬山の魅力は何よりも自由さではないでしょうか。雪のない時期にはヤブに覆われていたり、ガラ場で足元が悪かったりして、歩けないような場所でも、冬山シーズンになると雪がヤブやガラ場をすっかり覆ってくれます。その結果、われわれは登山道に縛られることなく、山を自由に歩きまわれる。その開放感は、夏山では味わえないものです。
また、雪は山をより美しくします。たとえば、晴れた日に冬山の頂に立てば、青い空をバックに純白の稜線が一面に広がります。森では木々が雪をまとい、静かにたたずんでいます。冬山でしか見ることのできない特別な景色との出会いも、楽しさのひとつ。
冬山で楽しめるアクティビティ
冬山で楽しめるアクティビティは登山だけではありません。
たとえば、本格的な登山はちょっとという人には、雪に覆われた森の中をスノーシューで歩くスノートレッキングがおすすめです。冬になるとスキーやスノーボードを楽しんでいる人は、ゲレンデを飛び出して、バックカントリー・スノーボードで自然のフィールドを滑ってみるのも面白い。その爽快感は別格です。凍った滝を登るアイスクライミングもあります。
どのアクティビティも、やればやるだけ、次はあそこを登りたいとハマっていくはずです。自分なりの冬山スタイルを見つけましょう。
冬山で楽しめるアクティビティ
- 冬山登山
- スノートレッキング
- バックカントリースキー・スノーボード
- アイスクライミング
冬山と夏山との違い
冬山のシーズンには、山は雪に覆われ登山道も雪に埋まってしまいます。夏の間、頂上に導いてくれた登山道が、冬山では当てにできません。これが夏山との最も大きな違いです。
それでも、先行者のトレースがあれば、それを登山道の代わりにたどっていけます。大変なのはトレースがないときです。地形図と地形を見て、キックステップやラッセルをして、自分の力でルートを切り拓いていかなければならないからです。
また、ルートや積雪の状態によってはピッケルやアイゼンなどの冬山特有の装備も必要になります。寒さも夏山との大きく違うため、防寒着や厚手のグローブを身につけ、寒さ対策が必要になります。
冬山は寒さと危険への適切な計画と準備が大切
冬山が登った事がない人ほど、冬山の寒さや危険に漠然とした不安を抱いているのではないだろうか。たしかに、とても冬山は寒いです。そして厳しい寒さは低体温症や凍傷につながる。雪崩や滑落など冬山特有の危険もあります。
でも、そうしたリスクは、適切な計画と準備、登る山の選定や行動中の判断などによって回避できます。寒さに対しては、防寒着や厚手のグローブなど冬山専用の装備を準備しましょう。歩行技術やピッケルワークを練習しておけば、滑落のリスクを減らすことができます。
そして、山での遭難事故は決して起こしてはならないものだが、どんなベテランでも遭難する可能性はあります。冬山では些細なミスが大事故に結びつくことがありますが、危険をやみくもに恐れるのではなく、危険に遭遇しない方法、回避する方法を考え、実行しましょう。
すべての人が死を覚悟し、決死の思いで登っているわけではありません。
大事なことは、正しい技術や知識を習得し、経験を積み、危険を回避する努力を重ねることです。そうすれば、冬山は怖いものから、楽しいものに変わっていきます。
冬山の登山適期とは
山が雪に覆われる冬山シーズンは、エリアや標高によって異なります。
積雪の多い北アルプス北部では、11月には雪が積もるようになり、翌年5月末まで雪が残っていることが多い。つまり、この山域では11〜5月が冬山シーズンとなります。太平洋側の低山では、12〜3月に少し積雪があってもすぐに解けてしまうため、明確に冬山といえるシーズンはありません。
登山記録などでは一般的に12〜3月を「冬期(冬山)」として、なかでも最も寒さの激しい1〜2月を「厳冬期」と言います。その後、3月中旬くらいから5月までは「春期(春山)」であり、そのうち4〜5月を「残雪期」と言います。
なお、雪が降り始める11月は「初冬期」となります。初心者が冬山にデビューするには、1〜3月の太平洋側の低山や残雪期の山がおすすめです。
初冬期
日本アルプスなどの中級山岳以上の山で、本格的な積雪がはじまる季節。まだ積雪量は多くないが、上空への寒気の流入によってはひと晩で大量の雪が降って、積雪によって登山道の状態が一変することもあるので注意が必要です。 太平洋側の標高1000m前後の低山では、この時期は雪はまず降らない。
冬期(厳冬期)
北アルプスでは、最も雪が降る季節。特に北部や日本海側では荒天が続くため、入山を控えるか、冬山を登るための諸技術を確実に身につけて入念な準備をしたうえで、経験豊富な人とパーティを組んで山に入るべきです。
太平洋側の山では好天が続くが、南岸低気圧による大雪には注意が必要です。
春期(残雪期)
標高の低いところから徐々に雪が解けはじめるます。5月に入ると北アルプスも天候が落ち着き、山小屋も営業を開始します。日中の気温は暖かく、雪質も安定しているので、冬山初心者でも登りやすい時期になります。
比較的安全に冬山を楽しむことができるシーズンだが、ときに天候が悪化して冬のような吹雪や寒さに襲われることもあるので要注意です。
日本の冬山の特徴
冬山の特徴を考えるとき「地域」と「標高」の2つの視点がポイントになります。
地域は、登る山が「太平洋側」か「日本海側」かで、天候(晴天率)や降雪量が大きく変わってきます。また、標高が高くなれば、気温が低くなったり、森林限界を超えたりして、環境は厳しくなります。
ただ、必ずしも標高の高さと難易度の高さは比例しません。たとえば、八ヶ岳の硫黄岳(2760m)のようにベースとなる営業小屋があり、人もたくさん入っている山は、標高は高いが初心者でも登りやすいです。逆にいえば、いくら標高が低くても人が入っていない山は、ルートファインディング力や自分たちでラッセルする体力が必要となります。
地域について
日本の冬の天候として、太平洋側は空気が乾燥して晴天の日が多く、日本海側は曇って雪の降る日が多いです。この特徴は平地だけではなく、山でも同様で、北アルプスや谷川岳をはじめとする上越の山々では、12〜2月にかけて悪天候の日が多く、ときには1日で数mも積もる猛烈な降雪となります。
一方、八ヶ岳や富士山などの太平洋側の山は、日本海側に比べると降雪量は少なく、天候も安定しています。
標高について
標高が高くなれば、それだけ山の環境は厳しくなります。一般的に気温は、標高が100m上がるごとに0.6℃下がると言われています。寒くなれば、凍傷や低体温症などのリスクは高まります。
また、標高が高くなると「森林限界」を超えて、風雪の影響をもろに受けるようになります。森林限界は山域によって異なるが、本州中部の高山では2500m付近になる。
低山(1000m前後)
標高が1000m前後の低山は、太平洋側ではあまり降雪はないが、天候によっては雪に恵まれることもあります。無雪期登山の経験者ならば、容易に登ることができます。ただし、日本海側では、低山といえども雪が深く、入山する際は経験者の同行が必要なる。
2000mクラス
およそ2500m以下の山ならば、森林限界を超える分、強風や雪面のクラストの心配はあまりありません。また、山域によるが、天候が悪化したら、麓の町家スキー場などに戻りやすい山も多く、冬山入門者が基本技術を学ぶのに適しています。
3000mクラス
森林限界を超えるため、悪天候になれば、強風にさらされます。また、岩と雪がまじるミックス帯になったり、雪面がカチカチにクラストしたりするため、確実な歩行技術。ときにはロープを使った安産確保技術が不可欠。上級者向けになります。
冬期・厳冬期の山の注意点
厳冬期の山が、初冬期や春期(残雪期)の山と決定的に異なるのは、「寒さ」「風」「降雪・積雪」などの冬山の環境条件が圧倒的に過酷になります。その厳しさは、ときに凍傷や低体温症など重大な危険を生みます。事前のリスク対策が必要です。
厳冬期の山の注意点として、凍傷、低体温症、雪庇、強風・風雪などが挙げられる。注意する点は多く、厳冬期の山は、低山の冬山や残雪の山で学んだすべての歩行技術や経験が総合的に問われます。
入念な計画と準備をして挑みましょう。
凍傷
凍傷とは、低温が体の局所に及ぼす血行障害のこと。極度の低温状態に長時間さらされると血行障害にさらに進行し、皮膚や組織が凍結した状態になり、最悪の場合は壊死に至ります。
冬山登山では、寒さや風に直接さらされる顔周辺、特に頬、耳、鼻がなりやすい。手足の指先など体の末端部も要注意です。雪や汗で濡れたグローブやソックスを身につけたままだと、凍傷になる危険性はさらに高まります。
凍傷の予防法
- 厚手のグローブ、ソックスなどの衣類で保温
- グローブやソックスは濡らさない。濡れてしまったら、場合によって予備に交換
- 手足の指を動かして血行促進
- 水分をしっかり摂って、血流をさらさらに
- 血行促進剤を塗る
低体温症
人間の体温は通常37℃前後に保たれているが、低温状態に長時間さらされて恒常性維持機能が失われると、35℃以下に下がることがあります。こうした体温低下によって起こる全身的な症状を低体温症と言います。
まず初期症状の体の震えを見逃さないことが大切です。ウェアを足したり体を動かしても震えが収まらず、問いかけへの反応が鈍く、頻繁につまずいたりするときは、行動を中止して保温に努めましょう。
発症する外的要因は、低い気温、風、濡れなどで体温が奪われること。内的要因は、エネルギー不足で体温の生産することが出来なくなることが考えられる。
低体温症の予防法
- 天候に応じたウェアリング(防風・防寒)
- ウェアが濡れないように、発汗しないペースで登る
- もし濡れてしまったら、予備に交換
- 充分なエネルギーを補給する
雪庇
風に飛ばされた雪が、稜線の風下側に吹き溜まり、庇のように張り出すのが雪庇。冬型の気圧配置になると北西の季節風が吹くため、南側や東側の斜面にできることが多い。小さいもので数十cmだが、豪雪地帯の山では40m以上にまで発達することもあります。
雪庇は崩落したり、踏み抜いてしまう危険があるため、絶対にその上に乗っていけません。雪庇に乗らないためには、雪庇が発達している稜線では、風上側に大きく迂回して歩く必要があります。
強風・風雪
厳冬期の森林限界を超えた稜線上では、ときとして猛烈な風が吹きます。強烈な風は転倒・滑落の原因になります。一歩一歩慎重に歩を進め、強風が吹きつけてきたらピッケルと両脚の3点で耐風姿勢をとることを心がけます。強風に降雪が加わると、状況はさらに厳しくなります。真横に飛んでくる雪が顔面に当たって痛く、風上側に顔を向けることさえ困難になります。強風・風雪時は、無理に行動せず、安全な場所で待機しましょう。
冬期・厳冬期におすすめの山
厳冬期の山は過酷だが、山域を選び、好天をつかめば、登れるチャンスはあります。
山域は、日本海側に比べると降雪量が少なく、晴天の日も多い、八ヶ岳や南アルプスなどの太平洋側の山がおすすめです。天気図を見て、好天が期待できる時期を見計らって山を入りましょう。
また、冬期営業している山小屋も有効に活用したい。なかでも八ヶ岳は、通年営業の山小屋が多く、人も多く入るので、厳冬期の山に初めて登る人には最適。年末年始のみ営業している山小屋もあり、正月休みに厳冬期デビューするのもいい。
山名 | 標高 | 特徴 |
---|---|---|
安達太良山 | 1700m | 通年営業のくろがね小屋やゴンドラが利用できる。冬山入門コース。なだらかな地形のため、視界不良時は注意 |
硫黄岳 | 2769m | 通年営業の赤岳鉱泉をベースにできる。森林限界から上部も広い尾根が続き、厳冬期登山者初心者でも登りやすい |
赤岳 | 2899m | 八ヶ岳の最高峰をめざす人気のルート。入山者は多いが、上部では急峻な岩稜となり、滑落などに注意が必要 |
地蔵岳 | 2764m | 夜叉神峠から入山し、鳳凰三山を踏破する。稜線上の小屋は年末年始のみ営業している。 |
燕岳 | 2763m | 年末年始に営業する燕山荘を利用して、越年登山を楽しめる。稜線からは厳冬の槍ヶ岳の展望がすばらしい |
西穂独標 | 2701m | 冬の北アルプスの入門コース。新穂高ロープウェイと西穂山荘(通年営業)を利用。独標直下は岩雪まじりの急斜面 |
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。