アウトドアでは、インサレーションは優れた防寒着です。夏のハイキングでも標高2500mを超える高山では冷え込み、春の残雪期や秋の紅葉時期になれば、気温は東京の冬と変わりません。汗をかいて身体が冷えたとき、休憩で風に吹かれたとき、雨が降り気温が急激に下がったとき、インサレーションウェアが大いに活躍します。
では、そんな無雪期のハイキングでも重要になるウェアを、他の防寒アイテムと組み合わせてどこまで軽量化できるのか。軽くて暖かい防寒着とはどんなものなのか。
ここでは、インサレーションをウルトラライトにする方法を紹介します。ハイキングスタイルに合ったインサレーションの素材、ダウン・化繊綿の特徴、インサレーションをUL化にするポイント、おすすめの商品などをまとめています。
目次
インサレーションはハイキングスタイルで選択しよう
日中に歩き続けるなら、防寒着に頼らなくても運動による発熱で体を温められます。
日の出から日没過ぎまで、とにかく歩き続けて体を温めます。朝や夕方の、じっとしていると寒い時間帯にも、歩いて体を温めます。そして、シェルター設営後はすぐに寝袋・シュラフに潜り込んで体温を逃さないようにする。シュラフを体に巻きつけて、明け方のトレイルを歩いているハイカーさえいます。
このように、ハイキング中は歩くか寝るかだけなら、防寒着の出番はありません。自分のペースで長時間歩いているソロハイカーなら、イメージがしやすいかもしれません。ある程度の保温力をもつシュラフを使用することが前提にはなりますが、このようにウルトラライトハイカーたちは防寒着にあまり関心をはらわない人が多いです。
しかし、休憩や食事など、ハイキング中でも歩いていない時間があるのも事実。特に、パーティでのハイキングでは、この傾向は強くなります。また、日本のトレイルでは、幕営指定地の間隔や午後からの天候悪化等で、早めに行動を切り上げることは決して少なくありません。
標高が上がればトレイルの大半は稜線になります。森林限界を超えれば風雨はダイレクトにハイカーを襲います。夏の雷雨の恐ろしさ、春秋の雨の冷たさ、日本のハイキングは停滞や行動の切り上げという選択は珍しくありません。
歩いてはいない、眠るわけでもない時間が比較的長い日本のハイキングでは、防寒着の出番は多いといえます。
このように、ハイキングスタイルによって防寒着の選択に大きく影響します。
インサレーションの素材を選択する ダウン・化繊綿の特徴とは
防寒着を必要とするのは、歩いているときではなく休んでいるときです。
そこで役立つのが、ダウンや化繊綿などの中綿をもつインサレーションウェアです。同重量のフリースと比較すれば軽さ・コンパクトさ・暖かさ、すべてにおいて性能が高いので、歩行中にはほぼ着用しない無雪期のハイキングでは、ダウンや化繊綿のインサレーションウェアが防寒着には最適です。
軽さ・コンパクトさ・暖かさに強い「ダウンインサレーション」
軽さ・コンパクトさ・暖かさにおいて満足できるのは、ダウンジャケットになります。
厳冬期用のボリュームあるハイロフトモデルだけでなく、スリーシーズン用の薄手モデルも充実しています。防寒着としての基本性能では群を抜くダウンジャケットですが、唯一の弱点は湿気です。特に、高品質ダウンは少量でも大きく膨らみジャケットののかさを維持できることから、軽量化の素材として好まれています。
しかし、少量のダウンでかさをもたせたジャケットは、湿気を帯びると急激にそのかさを失います。もともとのダウン量が少ないので、ペチャっとつぶれやすいのです。インサレーションウェアは空気を含んだ断熱層の厚み(ロフト)が保温力を決めます。湿気でダウンのかさが減れば当然、保温力は落ちます。
「雨が降り続くハイキング」「湿度が増し、すべての道具や衣類が湿ってきた」「汗をかいたカットソーの上へ防寒着として羽織りたい」などの状況に注意して使用しよう。
ダウンとは
ダウンにはフィルパワー(FP)という指標があります。これは、ある重量のダウンがどれほど膨らむかを示しています。フィルパワーが高いほど膨張するので、ウェアに必要な厚みを出すためのダウン量を減らして軽量化できます。当然、FPが高いものほど値段も高くなります。
最近の高級品は約850FP以上と、一昔前から100ポイントほどアップしています。しかし、 FPが高いダウンほど少量の湿気でしぼんでしまいます。そこで、ダウンにフェザーを混ぜて羽根の力でかさ高を作りだしています。高級品ではダウン95%、フェザー5%くらいですが、湿気が多い環境で着用されるインナーダウンではフェザーが10%のものもあります。
また、FP値とは一定の乾燥した状態で測定した目安の数値で、どんなフィールドでも確実な保温力を保証してくれるわけではありません。ちなみに、FP値はヨーロッパとアメリカでは測定基準が違い、アメリカのほうがヨーロッパよりも10%ほど数値が高く表示されています。
なので、FP値だけを見て、ヨーロッパのダウンウェアが性能が低いと勘違いしないように。ちなみに、日本はアメリカ基準を採用し、アメリカの機関に測定を依頼しているみたいです。
湿気に強い「化繊インサレーション」
雨が多く、湿度が高い日本の山では、ダウンを濡らしてしまう状況は珍しくはありません。ダウンを濡らしたくない、そんなハイカーには化繊綿インサレーションウェアが最適です。最大の特徴は、湿気に強いこと。ほとんどの化繊綿も同じですが、ハイキングで頻発する「雨や汗で湿っている状態」では、ダウンと比較すると圧倒的に有利です。
軽さ・コンパクトさ・暖かさはダウンに劣るため、同じ保温力を得るためにはかさ張り、重くなってしまいます。厳冬期用ハイロフトモデルならそれが顕著に現れますが、スリーシーズン用薄手モデルなら大して差はありません。日本やイギリスなど雨の多い地域のハイカーにとって、薄手の化繊綿インサレーションウェアはダウンとは異なるメリットをもつスリーシーズン用防寒着として存在感を高めています。
軽さを突き詰めるなら、もちろんダウンの選択が間違いない。しかし、軽さを維持したうえで湿気対策もとりたいなら、無雪期のハイキングには化繊綿インサレーションウェアの選択を検討してみよう。
化繊とは
化繊は、クライマシールド、プリマロフト、ポーラガード、ウッドライト、モンベルのエクセロなど、種類はいくつかあります。
それぞれ軽量性やかさ高、復原力などに特徴がありますが、どれもダウンに並ぶような性能のものはいまだ開発されていません。化繊の最も大きなデメリットは、圧縮した状態で長時間おいておくと化繊に癖がついてしまい、ロフトが復元されにくくるなること。ヘタってしまいます。
化繊を選ぶときは、構造の微細さ、材料の重さ、ヘタりにくさ、濡れへの強さを考慮したいです。ウェブで検索するとメーカーによって保温力の評価方法はバラバラだが、暖かさと重量の指標として、クロー値(clo/oz)という数値があります。クロー値(clo/oz)は、断熱材1インチ厚のクロー値を1㎡あたりの質量で割った値で、暖かくて軽い素材ほど大きな数値となります。
数ヶ月におよび長期間のハイキングでは、途中で化繊綿がヘタって保温性が低下することや、濡れた場合の水分吸収量など、用途(スリーピングバッグ、防寒着)や場面を想定して化繊綿の種類を選択している人々がいます。ULハイカーは、軽くて性能のよい素材を探しています。
インサレーションをUL化にするためのポイント
インサレーションウェアは、衣類としてだけでなく、スリーピングシステムの一部としても捉えられるようになりました。保温力、収納性、重量、湿気対策、寝袋・シュラフとの保温力バランス、そして歩き方をふまえて選ぶ必要があります。
インサレーションウェアの選択には、ハイキングスタイルが反映されます。
歩く人数
ソロハイキングでは誰を待つ必要もありません。休憩時間は自分次第で、体を冷やす前に歩き始められます。ソロハイカーはゆっくりとでも常に歩き続けて体を温めてられるため、防寒着を軽めにすることも可能です。
一方、パーティでのハイキングの場合、全員のペースを合わせなくてはなりません。人によっては待ち時間が長くなるため、体も冷えます。こうした待ち時間に寝袋・シュラフを取り出して体に巻きつけるのは、現実的ではありません。
歩き方・行動時間
日本では日没過ぎまで歩くのはなかなか難しいが、早朝からの行動することは多いです。
午後3時〜4時に行動を切り上げるとしても、朝4時〜5時に歩き始めれば、10時間以上は歩けます。早朝の寒い時間にはさっさと歩き始めて体を温め、夕方の寒くなる前に夕食をとって体を温め、そのまま暖かい寝袋に潜り込みます。このように日の出から夕方まで歩き続けるハイカーなら、防寒着のボリュームを下げられます。
ただ、立ち止まって景色をながめ、動植物の観察を楽しみながら歩くハイカーなら、やはり厚めの防寒着が必要なります。
エリア・季節
奥多摩や奥秩父では、6月上旬から10月上旬までは、明け方の最低気温が0℃を下回ることはあまりありません。5月下旬以前や10月中旬以降には最低気温は-5℃を下回ることも増え、降雪や氷結が見られるようになります。7〜8月の盛夏を除くと、5月下旬と10月上旬が防寒着のボリュームを考えるちょうどよい時期になります。
歩くエリアでの最低気温の変化に注意を払おう。多くの山域で5月と10月の2ヶ月間は、気候が大きく変化する月になります。
インサレーションと組み合わるウェアと避けるべきウェア
防寒着に保温性を考えると防風性能も重要になります。風が表面の生地から入ってくるようでは保温できません。
防寒着にはウィンドストッパーなどの防寒膜を仕込んだものもありますが、かさばってそれなりに重量があるし、温度調整もやりにくいです。もしシェルを持っているなら、それで防風機能は兼用します。
シェルはレインウェアで足りますが、防寒着のロフトを潰すようなサイズの組み合わせは避けるべき。汗は断熱材を通過してシェルの表面から抜けるので、透湿性が不足して汗で濡れてもロフトを保つように化繊綿の防寒着を用いるのがよいです。
防寒着の表面の生地には、ある程度の耐久性や撥水性を持つものが使われています。結露したシェルター壁や雪にふれたり、シェル内面での結露で断熱材を濡らさないためです。
別に、シェルを着用する場合は、防寒着にウィンドストッパーなどの強い膜ものを持ってくると、シェルと重ねて膜が2枚になるので透湿性が減り、内部を濡らしてしまうことがあります。防寒着や中間着を汗で濡らさないために、不用意な組み合わせには注意したいです。
ただ、運動量の調整や小まめな放熱で発汗を制御して、防寒着を濡らさないことが重要です。これには経験やテクニックが必要ですが、追加や買い替えのウェアはいらないので、追加重量はゼロで済みます。
ウルトラライトにおすすめなインサレーションウェア
気温に合わせてレイヤリングするための軽量で快適なインサレーション紹介します。
ウエスタンマウンテニアリング フラッシュベスト(メンズ)
平均重量 | 140g(Mサイズ) |
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素材 | 0.9ozドットリップストップナイロン |
値段 | 24,840円 |
厳しい環境からタウンユースまで幅広く使える軽量ダウンベスト。平均重量わずか140g(Mサイズ)です。エクストリームコンディション下では、体幹を保温しパフォーマンスの低下を防いでくれる頼もしい一着。ファスナーには上下しやすいテープを取り付け、深めで大きなポケットは実用性も抜群。付属ケースにコンパクトに収納できるのがうれしいところです。
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モンベル プラズマ1000ダウンジャケット(メンズ)
平均重量 | 132g(Mサイズ) |
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素材 | 7デニール・バリスティック エアライト |
値段 | 27,565円 |
モンベルの技術の枠を集めた世界最軽量のダウンクロージング。1000フィルパワー・FXグースダウンに加え、生地に耐久性がある極薄シェル素材を使い徹底的に軽量化を行った。収納も非常にコンパクトで、まさにアウトドアの究極の一着と言えます。
「モンベル プラズマ1000ダウンジャケット(メンズ)」の詳細・購入ページへ
OMM ロータースモック
平均重量 | 220g |
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素材 | Pointzero/PrimaLoftONE 40g |
値段 | 23,760円 |
オールシーズン着用可能な軽量・薄手の機能性溢れる化繊のダウン。最近珍しいスモックタイプは、保温性と軽量化を考えた最良のデザインで、コンパクトな収納力。羽毛ダウンに負けない軽さを実現している。腹部のポケットは裏地がフリース地のためキャンプ時などには枕としても利用できます。
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。