登山・ハイキングの食料を軽量化する方法 ウルトラライトな食料計画術

登山・ハイキングの食料を軽量化する方法 ウルトラライトな食料計画術

調理道具や燃料の選択と使用法によって軽量化できるが、どんな食材を持っていくかによっても、荷物を軽くすることができます。

1日に必要なカロリーや効率的なエネルギー補給だけでなく、調理方法に合った食材選びや食事方法の見直しをすることで、山で食べるごはんをより楽しく、ラクに登山やハイキングができるようになる。

ここでは、登山やハイキングのウルトラライトな食料計画の立て方を紹介します。より軽量な食料計画の立て方、ULの調理法に合った食材の選び方、食事方法の見直し方、調理不要な軽量な食材などをまとめています。

軽量な食料計画の立て方

ハイキングではどんな食事が必要なのか、成人男性を例にハイキングに必要なカロリーを見ていこうと思います。様々な計算法がありますが、おおよそこのように考えて良いと思います。

成人男性の必要なカロリー

  • 基礎代謝量:約1500kcal
  • 空身で8時間歩行:約2000kcal+基礎代謝量
  • 10kgの負荷で8時間歩行:約3000kcal+基礎代謝量
  • 20kgの負荷で8時間歩行:約3500kcal+基礎代謝量

ベースウェイト5kgに水&食料を加えるウルトラライトハイキングでは、4000〜4500kcalが1日の必要カロリーだと言えそうです。
しかし、すべてを担がなければいけないハイキングでこれをキッチリ摂取するのは難事です。穀物100gあたりのカロリーはどれもおおよそ350kcal。穀物を1日1kg摂取しても必要カロリーには届きません。

実際のハイキングで、食料計画が1人あたり1日米1kgというのは現実的ではありません。1泊2日のウィークエンドハイキングなら好きなだけ食料をようしても担げるでしょうが。3泊4日、1週間、10日と日数が増えるにしたがい、その軽量化は切実になります。

なので、1人1日500〜600gの食料というのが現実的な計画といえそうです。摂取カロリーは必要カロリーに及びませんが、体験的には無雪期のハイキング10日程度までなら、それほど厳密にカロリーを考えなくても支障はない。もちろん個人差は大きいので自身によるさじ加減は必須ですが、多くのハイカーがロングハイキングと感じる5日以上のハイキングでは、以下のプランが考えられます。

1人1日あたりの食料計画
朝食100g
行動食・嗜好品250g
夕食150g
合計(1日分)500〜600gが現実的

朝食:100g(400kcal)

歩き始める前にエネルギー補給をしますが、行動前に満腹になると血流が胃に集まり、動きにくくなります。歩き始めの数時間、胃が重くて調子が上がらないという経験はないでしょうか。
朝も調理し、しっかり食べてから出発する人が多いですが、朝食をとらずに歩き始め、行動食をとりながら1〜2時間歩いたのちに朝食をとるというスタイルもいます。
朝食にフリーズドライ食品を利用するなら量を少なめに調整し、そのぶんをカロリーが高いココアや即効性の高いエナジーゲルで補います。エナジーゲルは湯に溶いて飲むといいです。これは歩き始めの朝にこそ有効です。朝食も行動食で済ませると割り切る場合でも、朝の冷気のなか、こうした温かい食べ物は身体も心も温めてくれます。

行動食・嗜好品:250g(1150kcal)

ハイキングは運動強度が低いものの、エネルギー摂取に限界がある山のなかでは、行動中のエネルギー補給は厳密にすべきです。

ハイキング中は血糖値を下げてはいけません。空腹を感じる前に少しずつ食べ物を口にしましょう。まとめて食事をとるよりも、適宜少しずつ補給するほうが効果的です。歩いている最中の満腹感は動きを鈍くするだけでなく、集中力も下げてしまいます。血糖値を下げず、かつ満腹感を避けるためには、歩きながら少しずつ食べると良い。

行動食は調理せずにそのまま食べられるもの、小分けして食べられるものを選びます。ナッツ類は100gで550kcalと重量あたりのカロリーが非常に高い点がメリットです。揚げ菓子やスナック類、サラミビーフジャーキーといった乾燥肉も同様に、カロリー摂取の点で有効です。
エナジーゲルは100gで240kcalと、重量あたりのカロリーはさほど高くはありません。しかし即効性が高い点と血糖値を安定させやすい点が最大のメリットです。正念場や、固形物を食べたくないときに有効です。

行動食には、カロリー・即効性など合理的な面、甘味・塩味など嗜好品としての面、このバランスを考慮しながらセレクトする楽しみがあります。

夕食:150g(550kcal)

1日が終わり、シェルターの中でくつろぐ時間で、温かい夕食はハイカーの楽しみです。

疲れたハイカーは調理になるべく時間をかけたくないので、簡易に温かい食事が作れるフリーズドライ食品が好まれます。消費したエネルギー補給や睡眠時の体温保持のため、朝食よりも多めの食事が必要です。行動食の一部を楽しみとして食べることも、エネルギー補充には有効です。
フリーズドライ食品は、ジッパーつきプラスチックバッグに湯を入れ蒸らして調理するボイルインバッグという方法があります。この方法は、クッカーが汚れないため水やペッパーが節約できるだけなく、調理中の水蒸気発生を抑えてシェルターの結露対策にもなるなど、軽量化以外のメリットも多いのです。

なお、カロリー摂取のみを合理的に考えていくと、ストーブ&燃料などを省いて軽量化を極限まで推し進めるといった理由から、火を使わずそのまま食べられるものや水で戻すだけで食べられるものを好むスルーハイカーは多いようです。

調理法に応じて食材を選択する

食品に熱を加える調理法には煮る・焼く・炒める・揚げるなどがあるが、山では制約があります。
「煮る」「蒸す」は湯を沸かせばできるから、どんなストーブでもできそうですが、火力が弱いと麺などは伸びてしまうので、火力はそれなりのものを準備したい。「焼く」はどのようなストーブでもできるが、「あぶる」はクリーンな炎で行いたいので、ガスや薪以外の燃料は遠慮したい。「炒める」「揚げる」は油の温度が肝心だから大火力が必要で、アルコールや固形燃料では温度の維持が難しいです。

ストーブ系を軽くしようと思ったら、ラーメンを煮るなど凝った調理は考えものです。うまいメシは山を下りてから食えばいい。軽量化のために食生活から見直すのがULハイカーです。

調理しやすいアルファ化された食品

私達は、三大栄養素のひとつである炭水化物をとらなくてはなりません。

煮ることは、炭水化物を吸収しやすいようにデンプンに熱を加えて消化しやすい分子構造に変化させているのであって、これをアルファ化といいます。ラーメンを煮るのも、メシを炊くのも、パンを焼くのも含まれているでんぷんをアルファ化させています。
しかし、せっかく熱を加えてアルファ化したでんぷんも、冷えると吸収されにくいものに戻ってしまいます。これをベータ化と呼びます。ただ、アルファ化したものを水分量10%程度の乾いた状態にすれば、このベータ化を防ぐことができます。

アルファ化された食品を使えば非力なストーブでも調理しやすく、温めるために湯に沸かす程度で済むから、ストーブ重量と燃料を大いに節約することができます。余分な鍋釜を持たずに済むので、相当な軽量化が可能になります。温かさの程度もあるが沸騰した湯も不要になる。

アルファ米をまずいや飽きたと言ってはいけません。ULにとっては、軽くてそれなりに食べられることが重要である。

食事の方法を見直して荷物を軽くする

もうひとつ、荷物を軽くしようと思ったら器にも気を配りたいです。

例えば、山飯をアルファ米と汁物とします。それぞれ、普段の食生活で食べると器はふたつ必要になりますが、アルファ米の蒸らしを付属の袋やポリ袋で済ませてしまえば食器は湯沸かし兼用の小さなカップで済むことになります。袋飯と言われるやつです。

この場合、湯に一度に200ccも沸かせば充分です。最初に150〜200ccほど沸かしてアルファ米の袋に注ぎ、蒸れる頃合いを見計って汁物用の湯を沸かせば大きな鍋は不要となります。汁物は沸かしたカップで飲みます。飯は袋から食い、食い終わった袋はゴミ袋にするなり帰ってから洗って再利用するなりします。
こうすることで鍋がひとつで済み、食器を洗う水や拭く紙も不要となります。袋に入れて口を縛った袋飯は、アルファ米がある程度水を吸ったらこぼれないから、保温のためにスリーピングバッグや靴下の中に入れても周りを汚す心配がありません。鍋で蒸らすと蓋もいるし、スリーピングバッグの中で保温してひっくり返したら厄介なことになります。

食事の方法を見直すだけで、ずいぶんと軽量化が図れるようになります。

調理不要の軽量な食材

アルファ米

アルファ米はアルファ化されているので湯や水にひたすだけで利用できます。白米のほかに具入りのものがあるので、メニューを工夫する余地はある。米のほか、パスタにもアルファ化されたものがある。商品名としてはマジックパスタというもので、湯を入れるだけで食べることができる。

クスクス

アルファ化されてはいないが、少し煮るだけで食べられる粒状のパスタにクスクスがあります。粒状なので熱の通りもよく、湯をかけると簡単にふやけるのだが、それだけでは充分にアルファ化されないので、吸収をよくするためには多少煮込む必要があります。粒状のパスタなのでパスタソースも絡めてもいいし、粒状のお吸い物を混ぜたり、塩昆布や醤油との相性もよい。

メリットとして、粒が不揃いなので隙間が少なくかさばらないことが挙げられます。1週間分の長期食料を隙間なく詰め込む工夫が必要な場合、クスクスは重宝します。

パン

パンも焼きたてはアルファ化されているので調理せずに食べられるが、古くなるとベータ化してしまい、硬くなってしまいます。パンは水分を含むので重く、密度が低いのでかさばるのは欠点だが、ラクに食べられるというメリットがあります。パンで済ませたいときは、お握り状にまとめたり、フランパンは真空圧縮でペチャンコにすると、かさばらない。あんパンなどは食べやすいが、圧縮するとあんがはみ出しててしまいます。

薄くスライスした餅が売られていますが、湯ですぐに戻るので調理の手間がかかりません。ラーメンが煮上がったら投入するとか、湯で戻してきな粉などをまぶして食べてもよいです。ブロック状のものも少し焼けば膨れるので、醤油をつけて海苔で巻くなどすればうまい。時間がないときに重宝します。

乾物

ひじき、切り干し大根・板麩のほかに、大豆で作った大豆ミートという肉の食感に似たものがあるので、アルファ米に混ぜておいて一緒に戻すと、歯応えや味に変化が出ておいしいです。繊維質のものを一緒に摂ると、腹持ちもよい気がします。
ただ、乾物を混ぜると、アルファ米の湯量では少ないので、事前の試食を勧めます。

食事を楽しむ袋飯メニュー

いくら軽量化のためといっても、アルファ米の白飯だけを食べ続けられるものではありません。味の変化も欲しいし、栄養面でも副食が必要です。
とはいえ、別途調理したりはできないため、主に乾物をアルファ米を小分け袋に仕込んでいって、湯をかけるだけでメシと一緒に食べてしまう。配合が良いとうまいものが出来上がります。ここではその袋飯の配合の例を紹介します。

ポルチーニのリゾット
材料容量
アルファ米100g
粉チーズ大さじ2.5
ポルチーニ6g
玉ねぎ or 玉ねぎパウダー5g
大豆ミート7g
切りいか5g
ほうれん草5g
てんさい糖ひとつまみ
天然塩1g
パセリ少々
250cc

行動中の栄養補給にトレイルミックスが最適

行動食には調理せずに食べられるものを持つの良いです。カロリーメイトやソイジョイなどは普段馴染みがあると思いますが、私はナッツにチョコレートを配合したトレイルミックスを持っていっています。ナッツ類は重さの割にハイカロリーです。
塩味が利かせてあり塩分補給もできます。チョコと塩味のあるナッツはどうかと思う人もいるが、なかなかイケます。自分でナッツを買ってきて混ぜてもいいし、面倒であれば市販のトレイルミックスもあります。

トレイルミックスは、いろんなメーカーから販売されて種類も多いが、すべてオーガニックを基本とした健康志向なものがおすすめです。季節ごとに配合を変えて、毎回何が入っているか楽しむのもアリです。

おまけ:主な乾燥食材を紹介

乾物は手に入れやすくて軽いし、しっかり栄養もあるし、食物繊維も摂取できて便利な食材です。袋飯の副食として味や食感・戻り時間など把握していろんなレシピを考案すると、より食事が楽しめます。

大豆ミート

大豆でできた代用肉で、タンパク質のかたまり。食感はササミ風で噛みごたえがあり、腹持ちもいい。これ自体に味はない。スライス・手羽先風・挽き肉風などあって、用途は広い。戻し時間は5分なので、袋飯を戻す間に調理できる。

どびいろ舞茸

乾燥きのこといえば舞茸が定番だが、好き嫌いが分かれる。舞茸は味の主張が少なく使いやすい。肉厚で食感がよく、食いごたえがある。戻し時間は10分なので、こちらも袋飯の戻し時間中に調理可能。

春雨

かさばるのが難点だが15gで50kcalもあり、カロリーは結構高い。スープと合わせると食べたという満足感がある。砕いて袋飯に入れてもまたよし。

小麦タンパク豊富で消化がよい。袋飯やスープの増量に向く。味の吸いがよく馴染みやすい。麩100gあたり約30gのタンパク質を含み、なかでも豊富なグルタミン酸が旨みを出す。

液体昆布だし

和風味を調えるのによい。旨み成分のグルタミン酸が豊富なので、だし汁をベースに塩や醤油を加えると味が決まる。粒状だと袋飯の底にたまって味にムラが出やすいので、馴染みやすい液体だしがお勧め。

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てくてくの人
登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。