登山で最もよく起こりやすいアクシデントが、足首、転んだ時に手をついた際の手首やヒジや肩などの捻挫。また、発生件数は捻挫と比べると多くありませんが、骨折や脱臼もあります。
どのケガも、RICES療法を基本原則として、応急処置するのが重要です。ケガした部分を固定することで、痛みや腫れがひどくなることを防ぎます。
ここでは、登山中にできる骨折・脱臼・捻挫などの応急処置を解説します。応急処置の基本原則であるRICES療法をはじめ、テーピングや副木を利用した各部位の固定方法、骨折・脱臼・捻挫などに有効な道具・薬をまとめています。
登山の応急処置!骨折・脱臼・捻挫の基本はRICES療法
山のケガで多いのは捻挫、骨折、脱臼、打撲などです。
何気ない動作が重大な事故に結びつくこともあれば、落石などの事故に巻き込まれて、ケガをすることもあります。
登山前にストレッチ体操を充分にする、長袖のシャツを着る、転びやすい人はストックを使う、捻挫しやすい人は事前に足首にテーピングをするなど、予防することもできますが、常にケガのリスクはあります。
もしケガをしてしまったら、処置法は大体同じで、すぐに「RICES療法」をします。
RICES療法とはまずケガ人を安静にし(rest)、氷や水で濡らしたタオルなどで冷やすい(icing)、腫れを予防するためにテープや包帯で巻いて圧迫し(compression)、打撲部を挙上し(elevation)、テーピングや包帯で固定(stability)するというもの。骨、関節、筋肉のケガの応急処置として重要で、痛みや腫れがひどくなることを防ぎます。
RICES療法
- Rest:ケガ人を安静にする
- Icing:ケガ部を氷や水で冷やす
- Compression:テープや包帯で巻いて圧迫する
- Elevation:ケガ部を挙上する
- Stability:テーピングや包帯で固定する
捻挫の症状・処置法
捻挫とは関節がずれて、靭帯が伸びてしまった状態です。
RICES療法の中で、とくに固定が重要で、テーピングをします。テーピングのコツは、患部を動かしても痛くない方向に固定するということです。くわしいテーピングの方法は専門書を熟読にしてください。
もっとも捻挫しやすいのは足首で、内側にひねるケースがほとんどです。市販の足首固定専用テープは数分で簡単に巻け、使いやすく、便利です。膝の固定専門テープもありますが、サポーターやほかのテーピングも併用すると良いです。
骨折の症状・処置法
骨折は捻挫と比べると、発生件数は少ないですが、起きるときは手足や肋骨を骨折するケースが多いです。打撲、捻挫、脱臼などと区別できない場合がありますが、変形がはっきりしている場合には骨折が分かります。
ただ、骨折の判断はとても難しいです。
見て、明らかに折れていることがわかる場合ならいいが、レントゲンを撮ってみないと判断のつかないことも多いです。骨折かそうでないか迷った場合は、骨折したと考えて応急処置をしましょう。もし骨折でなかったとしても、その処置は間違っていません。
以下の4、5、6の症状があれば、骨折は明らか。1、2、3の症状があるときも骨折を疑いましょう。
処置法はRICES療法が基本になります。固定するときは骨折した部位の両端の関節を固定して、骨折部が動かないようにします。副木は両関節以上の長さが必要です。枝、ストックなどを利用し、新聞紙を丸めて使っても良いです。はさむことができる腕や足などは骨折部をはさんで平行に副木をあてるとベターです。
骨が外にでてしまった開放骨折では、骨折部をガーゼで覆います。大腿骨折などの大きい骨折では出血量が多く、ショック状態になりますので、保温して、元気つけることが必要です。感染の危険があるので、急いで下山するか救助要請を行います。6〜8時間以内に専門的な治療を受ける必要があります。
骨折の症状 | 処置法 |
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脱臼・突き指の症状・処置法
脱臼の場合は、患部を固定し、下山後、受信します。成人でもっとも多いものは関節脱臼で、転倒して肩を強く打った場合などに起こります。腕の上端が前方へ外れて盛り上がります。安静時にも痛みがあり、骨折を合併している場合もあります。はじめての脱臼の場合は整復がむずかしいので、現場で整復を試みない方が良いです。習慣性脱臼の場合は整復が比較的簡単で、自分で整復できる場合もあります。
突き指は指の打撲、捻挫で起こります。軽傷なものから、骨折、脱臼、靭帯損傷を伴うものまでさまざまです。RICES治療を行いましょう。割り箸やテーピングで固定します。
もし登山中にケガをしてしまったら、骨折・脱臼・捻挫などの処置・固定方法
各部位の固定方法
関節が動かないように固め、痛みと腫れを緩和させます。
骨折、脱臼、捻挫は、いずれも激しい痛みを伴います。だが、どれに相当するのか、開放性骨折(骨が皮膚の外に露出する骨折)以外は現場では診断することは難しいです。
もとよりファーストエイドの観点は診断ではなく、現状維持、悪化の抑止にあるので、とりあえず部位が動かないように固定して医療機関に搬送するしかありません。
なお、固定は受傷部位が関節ならそれが動かないように、関節以外の部位なら受傷部を中心に前後の関節が動かないように固めてしまわないと効果がないです。
サムスプリントと呼ばれる呼ばれる市販の医療用副木があれば最善だが、なければ、傘、木の枝、トレッキングポール、折ったり丸めたりして棒状にした雑誌やノート、箸など、使えるものは何でも使いましょう。うまく固定できれば患部が動かなくなるので、それによって痛みが軽減でき、それ以上の悪化は抑止できます。
また、固定と併せて患部の冷却も行なう。これによってさらに痛みが減り、炎症による腫れが緩和される。
手指の固定方法(割り箸・サムスプリント)
割り箸をサムスプリントの代用とします。割り箸を包帯で手のひらに固定して、そのまま両隣の指と割り箸を包帯で固定。末端を結んで処理し、固定が完成です。
サムスプリントを使う場合は、割り箸を利用した時と同様に、手のひらごと固定します。上から包帯を巻くだけなので、簡単です。
手首の固定方法
サムスプリントを二つ折りにして縦に曲げ、強度を出します。手首から先を包帯で固定して、手首の手前の腕も固定していく。手首の前後を固定するのがコツです。
ヒジと上腕部の固定方法
サムスプリントを四つ折りにしてヒジに合わせます。ヒジを前後で挟むように包帯で固定。ヒジ以外のできるだけ広範囲で巻きます。固定部位が動かないよう、胴も固定します。
腕の吊り方と固定方法
腕、肩、鎖骨部の受傷は腕を吊ってしっかり固定し、負荷を減らします。
上腕部の骨折、手首の骨折、肩の脱臼、鎖骨の骨折などの場合、腕がぶらぶらしている状態では固定は不完全です。固定部位に余計な負荷がかからないよう、吊っておく必要があります。
また、特に肩の脱臼や鎖骨の骨折では、腕が動くことによって痛みが激しくなり症状も劇的に悪化します。がっちりと胴体を副木(スプリント)にしてしまう形で固定してしまいましょう。
三角巾で腕を吊る
三角巾を広げて、頂点がヒジにくるようにセットします。前腕が地面に対して水平の角度になるように三角巾を留めます。ヒジを三角巾の頂点で包むように三角巾の角を縛る。吊っている手も三角巾の中に入れてしまっても良い。
さらに、もう一枚の三角巾で腕を体に固定します。三角巾を帯のように畳んで細長くします。畳んだ三角巾を、上腕部にかからないように胴体に回していく。前腕部分がみぞおち付近にぴったりとフィットするように固定。これで吊った腕がぶらぶらしなくなります。
着ているTシャツを使って体に固定する
三角巾がない時は着用しているTシャツやトレーナーで吊る方法もあります。裾を折り返して、安全ピンで留める。ピン1〜2個あれば簡単に固定できます。
足首を捻挫した時の固定方法
捻挫は、アウトドア活動において最も多いアクシデントのひとつと言えます。もしひねってしまったら、とにかく固定して悪化と痛みを抑えましょう。歩くのが基本である登山で、要となる足首を痛めてしまうとまさにお手上げです。
手当としては、とにかく固定して冷やす、これしかありません。固定しないで放置すると、少し動かしただけで激痛が走り、症状はどんどん悪化します。そして、炎症を起こして腫れてきます。その対応は冷やすしかありません。
なお、靴を脱いでしまうと腫れと固定で、そのあとはもう靴が履けなくなってしまうので、その後の行動を認識したうえで、脱がせるか履かせたままにするかを判断しましょう。
包帯を使ったテーピングで固定する場合(サムスプリントを使う)
サムスプリントを四つ折りにして、縦方向に曲げ、強度を上げておきます。足を沿うように曲げたサスプリントを当て、包帯で固定します。膝に足を乗せて行うとやりやすいです。特に足首の部分のテーピングは、少しきつめに巻いてあげると良い。
靴の上から固定する場合(ウェビングテープなどを使う)
ウェビングテープの真ん中あたりに「引き裂け結び」をゆるく作っておきます。作った輪を爪先に履かせるようにしてくつく絞り込む。テープをカカトに回し込んでから、その前側でクロスさせます。テープが交流するごとにきつめに締め込んでフィットさせておく。靴自体をスプリント代わりにする方法なので、ハイカットシューズが効果的です。
テープは靴以外の部分(スネ)に巻かない。それをやるとゆるみの原因になってしまいます。
骨折・脱臼・捻挫などに有効な道具・薬
テーピングテープ
テーピングテープには非伸縮性と伸縮性(同、肌色)固定テープがあります。ケガの固定、圧迫には通常、非伸縮性テープを使います。腰痛や膝痛の予防には伸縮性テープが良いです。伸縮性テープの一種のキネシオテープは筋肉と同じ伸縮性をもち、ケガの予防、疲労緩和、腰痛や膝痛の予防に適している。筋肉を伸ばした状態で貼る。つまり、膝なら曲げて、テープは伸ばさずに貼ります。
三角巾
ファーストエイドの定番である三角巾。使い方は「三角巾道」と言っても過言でないぐらいの奥義があるが、使ってなんぼの道具なので気軽に使いたい。
その他用意したい道具・薬
- 副木(サムスプリント)
- ウェビングテープ
- トレッキングポール(副木にも利用できる。歩行の支えに)
- 手袋・軍手
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。