ハイキングの夜、寒さから身を守る保温の要はシュラフ・寝袋とマットになります。
しかし、季節やハイカー自身の経験値、耐寒力、寝相など、さまざまな条件によって寒さの感じ方は違ってきます。なので、シュラフとマットのスリーピングシステムの軽量化は一概には述べられません。
さらに、シュラフは生命維持にとって大切な道具なので、ほかの道具に比べて、軽量化は慎重に行いたい道具になります。
ただ、軽くて性能のよい保温材や熱のロスの少ない構造のシュラフを選ぶことで、暖かさと軽さを両立しつつ、今よりも軽量化を図ることが可能です。
ここでは、シュラフをウルトラライトにする方法を紹介します。ここでは、シュラフを軽量化するポイント、選び方のコツ、最適なシュラフのサイズや厚みの選び方、レイヤリングを工夫して快適に寝る方法、暖かい季節ならキルトでも可能、おすすめのシュラフなどをまとめています。
スリーピングシステムの軽量化 1kg以下を目指す
シュラフ・寝袋は、単体では機能しません。シュラフは掛け布団として、マットは敷き布団として連携すると機能します。エアコンがある快適な家の中で眠る場合でさえ、寒い季節は布団の厚みや種類を変えます。自然のなかで眠る場合はなおさらです。
- 夏は薄手のシュラフ・寝袋を身体にかけるだけでも十分
- 快適な睡眠にはシュラフよりもマットの厚みや断熱材が重要
- 無雪期には防寒着も寝具の一部と考える
- 寒さが厳しいときに快適に得るには十分な保温力のシュラフ・寝袋が必要
日本には四季があるため、季節に応じた柔軟性が必要です。スリーピングシステムは、無雪期にはシェルター以上に防寒&保温のカギを握ります。季節によっては防寒着もスリーピングシステムの一部と考えると、道具の軽量化につながります。
無雪期でも、残雪期や紅葉の時期も含めると対応すべき温度帯は幅広くなります。そのため、むやみな軽量化はおすすめしませんが、ウルトラライトハイキングでは目安として、1kg以下に収めることを目標にします。
シュラフ・寝袋を軽量化するポイント
スリーピングシステムで、重要なのはシュラフ・寝袋とマットになります。
シュラフは従来よりも軽量なモデルが販売されています。軽量化するには、より軽量なモデルを買い替えたり、あるいはカスタマイズしたりします。
しかし、寒さに関しては感じ方が人それぞれであるため、この季節、この気温ならこれがベストといった最適解を提示することは難しいです。自分の体質を考えて、無理のない範囲での軽量化しよう。
暖かい季節であればキルトやフードレスに
シュラフといえばマミー型が一般的です。その軽量モデルもありますが、さらなる軽量化を図るのであれば、キルト型を検討してもいいだろう。
登山用として販売されているもののなかには、背中の上部とフード、ジッパーを省いたものもあります。就寝時に背面上部のロフトは体重でつぶされ、それほど保温力を発揮しないことを考えて生み出されました。寝返りが多く背面の寒さが気になる人には、フードレストという選択肢もあります。頭や顔が冷える場合はニットキャップかバラクラバを被ろう。
マットはショートサイズか自分でカットする
スリーピングマットは、大きく分けると空気を入れるエアマットとそのまま使えるフォームマットがあります。好みや考え方にもよるが、少しでも軽くするのであればショートサイズを選びましょう。
つい自分の背丈を基準にしがちだが、足元はバックパックもしくはバックの背面パッドで代用すれば問題ありません。フォームマットの場合、自らカットすることができるので、さらなる軽量化も図れます。自分の体に合わせてカスタマイズしてみましょう。
また、スリーピングマットの軽量化について、以下の記事に詳しくまとめてありますので、合わせてチェックしてみてください。
枕はあるもので代用する
アウトドア用の枕は、寝心地は抜群です。しかし、UL的視点から見ればそれは贅沢品になります。ただ、ガマンする必要はありません。あるもので代用することができます。
それが、衣類の入ったスタッフサックです。もし衣類を着込んでしまったのであれば、タオルでもソックスでもレインウェアでもなんでもいいです。自分好みの高さや硬さが見つかれば問題なく熟睡できます。
ウルトラライトシュラフ・寝袋の選び方
シュラフの軽量化の方法は、残念ながら多くはありません。細かな温度調節ができるものではなく、行った先の環境の変化も大きいので、場違いなほどには厚すぎず薄すぎず、適切なものをバックパックに詰めて持っていくほかありません。
シュラフをいくら軽くしても、寒さで震えて眠れぬ夜を過ごすのは相当につらい。山の環境では、シュラフは生命維持につながる道具なので、ほかの道具に比べて、暖かさの余裕と維持を高めに設定しておきたい。
軽くて性能のよい保温材を使うこと、同じ重さなら熱をロスしない構造の袋であることなどのポイントを重視しながら、暖かさと軽さを両立して軽量化を図りたい。
シュラフの形やサイズ
まずシュラフの重量を決める要素としては形・サイズがあります。平面的なスリーピングバッグなら、封筒型に比べてマミー型のほうが材料は少なくて済む。さらに軽量化を図りたいなら、背中の上部とフードやジッパー省いたキルト型、フード部分のみを省いたフードレス型を選ぶと良い。
また、シュラフのサイズが必要以上に大きいと重たいだけでなく、暖気が移動して熱をロスしやすいし、体温の行き渡らない場所はコールドスポットとなって結露の餌食になります。
下半身のみの半シュラフ・キルトという選択肢
保温力のある防寒着を持ちつつ軽量化したいなら、下半身のみ半シュラフ・キルトを使う方法があります。半シュラフとは胸から下しかないシュラフで、上半身は防寒着で代用するようになっています。
シュラフの重ね着は、生地が2倍になるので重量面では無駄が多くなるが、工夫次第ではシュラフ自体を軽くできる。ただ暖かさをキープできないと結局スリーピングシステム全体では、重たくなってしまう。
ダウンと化繊
シュラフの保温材には、ダウンと化繊があります。同じ厚みだとダウンのほうが圧倒的に軽いです。化繊のシュラフで、ダウンと同じ温度帯を選ぶとなると、かなり重くてかさばってしまう。
ただ暖かい季節やキャンプ、洞窟の中などを高温度の環境などでは、扱いの容易から薄手の化繊を選ぶこともあります。
ダウンの膨らむ性能が高ければ量を減らせるので、シュラフを軽くできます。ダウンの膨らむ性能の指標はフィルパワー(FP)で表されます。現在、800FP以上のダウンが軽さの目安となるだろう。お金に余裕があれば、850FPや950FPなどの高級なダウンを選ぶといっそう軽くできます。
生地の素材や厚み
シュラフを構成する大きな材料である生地の素材は、保温材を濡れから守り、また穴が開いて断熱材が飛び出してしまわない程度に丈夫な必要があります。シュラフは面積が広いので、その重量差は無視できません。
ただし、最近の軽いシュラフは、中身の羽毛が見えるくらい極薄の生地が使われています。寝ている間は歩き回らないので衣類ほどには引き裂きや擦れに対する強度は必要ないが、扱いに気をつけねばならないです。
生地や縫製にはダウンが飛び出ない性能や、生地の防水性は雨具ほど求められないが、テント内の水滴などからダウンを守るための撥水性は必要になります。縫い目の補強や生地の防水に主眼を置いたシュラフもあるが、極端に重たくなる種類もあるので、総合的にバランスを見て選びたい。
ジッパーの重さを抑える
その他にシュラフを軽くするためには、ジッパーを短くしたハーフジップや、ジッパーを用いないものもあります。いくぶん軽量化になるが、出入りはしにくなります。
また、ジッパーを開閉しての温度調節ができず、閉まりっぱなしの足元の冷却のためにスリットが入っているものもあります。ジッパーの重量を抑えたい場合は、そのような対策の有無もチェックしておきたい。熱の逃げ場がなく、スリーピングバッグが部分的に暑すぎるのも、安眠にはつらいです。
最適なシュラフのサイズや厚みを選ぶ
必要なシュラフの厚みを決めるのは、シュラフ選びの最も難しいポイントです。厚すぎるものは無駄に重くなってしまう。
シュラフの厚みは、必要とされる保温性で決めるが、一概には決められません。シュラフには安眠できる目安となる温度帯が示されているが、万人に対してその温度帯で快適かどうか保証されるものではありません。国やメーカーによっても測定方法や基準が異なります。
また、暖かく眠るためにはシュラフの保温性以外に、代謝、寒さの耐性、末端の冷え具合など、個人の体質が大きく影響してきます。シュラフの湿り具合によっても左右されます。
しかし、寒さに関しては感じ方が人それぞれであるため、この季節、この気温ならこれがベストといった正解を示すのは難しいです。自分の体質を考えて、無理のない範囲での軽量化しよう。
なるべく無駄に重いシュラフを選ばない基準として、温度帯とロフト値が参考になります。必ずしもダウン量=ロフトとはならないのだが、幅広いメーカーのシュラフから比較して選択する場合、適切な適応温度を把握しやすいです。
適応温度 | ロフトの厚さ |
---|---|
-2℃ | 3.5inch(約9cm) |
-7℃ | 5inch(約12.7cm) |
-12℃ | 6inch(約15.2cm) |
-15℃ | 7inch(約17.8cm) |
-18℃ | 7inch(約17.8cm) |
-23℃ | 8.5inch(約21.6cm) |
-32℃ | 9inch(約22.9cm) |
-40℃ | 10inch(約25.4cm) |
レイヤリングを工夫して快適に眠る方法
睡眠は登山やハイキングの疲労回復のために重要です。そこで、レイヤリングという考え方を活用すると、道具を軽くして、快適な睡眠を得られるかもしれません。
寒い夜、持参した防寒着を着込んで夜を明かした経験はハイカーならあるはずです。ダウンや化繊の中綿ジャケットが格段に軽量化された近年では、無雪期でも休憩時の防寒着としてはよく利用されています。それなら、最初からそれをスリーピングシステムに組み込んではいかがでしょうか。シュラフと中綿ジャケットを組み合わせれば、無雪期におけるスリーピングバッグの選択肢は大きく広がります。
ダウンジャケットと組み合わせて使用していた下半身のみの半シュラフ・キルトは、同様のコンセプトで作られています。
しかし、この睡眠のレイヤリングには気をつけるべき点があります。
重量(内訳) | 合計重量 | 保温力 | |
---|---|---|---|
レイヤリングA |
| 1400g | △ 低い |
レイヤリングB |
| 1400g | ○ 普通 |
レイヤリングC |
| 1400g | ◎ 高い |
上記表のすべてのレイヤリングの合計重量は同じですが、最も暖かく眠れるのは例Cになります。シュラフの保温力不足を補うために、複雑なレイヤリングをしても保温力には限界があります。重量と保温力のバランスには注意が必要です。
防寒着を重ねて保温力を得るのではなく、持参した防寒着を活用すればシュラフを軽量化できるかもしれないと発想することが大切です。
軽量化を目指すなら、睡眠にレイヤリングを活用すべきでしょう。
暖かい季節であればキルトもあり
就寝時、シュラフの背面側のロフトはつぶれてしまいます。では、シュラフ背面側を省いてみてはどうだろうか。
こうした発想から生まれたシュラフがキルトになります。キルトは、ウルトラライトハイキングにおける象徴的な道具のひとつです。シュラフは掛け布団、マットは敷き布団のスリーピングシステムを、極端に推し進めた形と言えます。
キルトは、シュラフから背面上部3分の2と、フード、ジッパーなどを取り外したものです。背面上部のロフトは体重でつぶされるため、マットのほうが重要になります。フードは、帽子やフード付き中綿ジャケットで代用できます。
登山やハイキングに持っていく他の道具で代用できる部分は省略し、シュラフのエッセンスだけを残したものがキルトです。この省略による軽量化がハイカーに大きく貢献することから、ウルトラライトハイキングでは強い関心を集めています。
しかし、シュラフの背面がまったくの無駄だという訳でありません。人間の背面は平らな板ではなく、凹凸があります。腰にはくぶれがあり、身体と腕との間には隙間もあります。そうした箇所の保温には、シュラフの背面が重要です。
また、マットにも、その幅や厚み、クッション性には限界があります。寝返りをうったりマットから外れたりすることもあります。シュラフ背面が省略できるかどうかは、季節やハイカー自身の耐寒力・寝相などさまざまな要素によります。
無雪期や夏を中心とした季節なら背面やフードを省略したキルトは実用的でも軽量化の点でも有効といえそうです。特に、ダウンと比較して重量が大きい化繊シュラフは、キルトにすることで大きな軽量化が図れます。
おすすめのウルトラライトなシュラフ・寝袋
ハイランドデザイン ダウンバッグUDD
重量 | 577g |
---|---|
値段 | ¥40,000 |
濡れに弱いダウンをもっと自由に使いたい、という思いから生まれたフードレスのシュラフ。ナンガの協力のもと超撥水能力を持ったダウンを採用。810フィルパワーのダウンを260g用いることで、ゴールデンウィークの残雪の山から11月の晩秋の山まで、なるべく長い期間使用できるようにしているのが特徴です。ジップを全開にしてキルト的に使用することができるのもおもしろい。
「ハイランドデザイン ダウンバッグUDD」の詳細・購入ページへ
シートゥサミット スパークSp1
重量 | 348g |
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値段 | ¥38,000 |
850+フィルパワーの保温性とULTRA-DRYダウンの撥水性を兼ね備えた軽量モデル(ダウン量180g)。湿気に強く悪天候でも保温力が維持される。表生地の軽量化やハーフジップの採用など軽さにこだわりながらも暖かさを重視している点も見逃せない。フルフードは冷気の侵入を防ぎ、さらにフットボックスは冷気の侵入を防ぎ、さらにフットボックスは脚を冷えから守ってくれる。ULの第一歩を踏み出したい人におすすめです。
アストゥカス セントラルズキルト
重量 | 600g |
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値段 | ¥59,000 |
スリーピングバッグ、キルト、ブランケット、ポンチョとして使用することができるオールインワンギア。中綿は保温性に優れた化繊のkライマシールドを採用している。600gという重量は、スリーピングバッグ単体としてはさほど軽量ではないが、保温着を携行する必要がないと考えれば、トータルでは大幅な軽量化になるはずです。使い手の想像力をかき立てるユニークなアイテムです。
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。