山で遭難したくない動物といえば、真っ先に思い浮かぶのが熊。登山道の入口で「くま出没注意」という看板を目にしたことがある人も多いと思います。もし、登山中に熊に襲われると命を落とす危険もあります。
ただ、熊は本来臆病な動物なので、人間の気配を察知すると自ら逃げるか身を隠すといわれています。熊に遭わないためには音を出して、人間の存在を熊に知らせるのが有効と言われています。
そこで、今回、登山での熊よけ対策を紹介していきます。熊の目撃・被害情報をはじめ、熊の生態、回避法・対処法、熊よけグッズなどをまとめています。
熊の習性や行動パターンを知っていれば、熊に出会うリスクを減らすことができます。過度に怖がる必要はありません。
正しい知識を持って、登山を楽しみましょう。
熊が出没と被害情報が近年増えている
環境省が発表している統計によると、ツキノワグマによる人身事故は、多い年だと年間100人以上が負傷し数人が死亡。少ない年でも年間に50人以上が負傷している。これほど多くの人身事故が発生している国は、世界中を見渡してみても日本以外には見当たりません。
その理由として考えられるのが、人と野生動物の緩衝地帯であった里山が消失したことで、熊の行動範囲が広まり人と接触する機会が増えてしまったこと。つまり、熊が人間の生活空間である市街地や畑などに出没しやすくなったので、人身事故が多発しているのです。
クマに関する各種情報・取組 || 野生鳥獣の保護及び管理環境省
熊ってどんな生活をしているの?日本の熊の生態
日本の熊はどこに棲んでいるのか
ヒグマは北海道のみ。ツキノワグマは本州と四国に分布しています。
ヒグマは、北海道のなかでも知床や大雪山系などに多く生息している。ツキノワグマは、本州の東北地方や中部地方では6割以上の地域に、関東・近畿・中国地方では3割ほどの地域に分布する。九州地方は2012年に個体群が絶滅したと判断され、四国地方も絶滅の危機に瀕していると考えられています。
ヒブマ、ツキノワグマともに食べ物が豊富な森に棲んでいますが、最近は、過疎化で手入れの行き届かなくなった里山まで生息範囲を広げる個体も多い。また森林限界でも、雪渓の雪解けのラインに沿って芽吹く高山植物を食べにくることがあります。
熊はどんな生活をしているのか
熊は、繁殖期・冬眠期を除いて、いつもエサを探しています。縄張りをもたず、繁殖期(5〜7月)を除いて常に食べ物を探しています。だから、エサとなる植物の新葉や花、果実などが多い場所には、何頭もの熊が集まることがあります。
繁殖期はオスがメスを探して広い範囲を動き回り、気が立っていることが多いので注意が必要でうs。冬眠前の時期には、通常なら数キロメートル四方の行動範囲が、どんぐりなどの堅果類の凶作年には食べ物を求めて20〜30km四方と広くなるので、人間と遭遇する可能性が高くなります。
ほかにも、子連れの熊は、母熊が子供を守ろうとするので、遭遇すると危険なことが多い。もし見かけた場合はすぐに立ち去りましょう。
登山中に熊に遭わないための回避法とは
事前に熊の目撃情報を調べる
自分の行きたい山は、最近熊の目撃情報があるか、熊が生息している環境なのかを事前に調べておこう。たとえば、日光や奥多摩などのビジターセンターのホームページには、詳細な目撃情報が掲載されている。また、県や市町村でも情報を随時まとめていることがあるので、電話で問い合わせてみるのも良いだろう。
動物の死骸を見つけたら立ち去る
熊は、シカなどの野生動物を食べるために襲うことは少ないが、病気やケガで死んだ個体は好んで食べる。ただし、一度に食べきれないので、土や枯葉をかけて隠し、ほかの動物に横取りされないように近くで見張っている。もし山中で土や枯葉に覆われた動物の死骸を見たら、すぐに立ち去ること。
最近は、防鹿柵のネットにシカの死骸が絡まっていることもあるのが、これもクマが見張っているかもしれないので、近づかないようにしましょう。
熊鈴や手を鳴らそう
熊鈴やラジオなど音の出るものは、熊と出会わないために有効なツール。しかし、音の出るものを携行していても熊に襲われた事例があるので、過信は禁物です。ササヤブなどの見通しの悪い場所や、沢沿いなどの音が聞き取りにくいところでは、声を出したり手を大きく叩いたりして、自分の存在を熊に知らせるようにしましょう。
熊の痕跡を頻繁に見たら注意
爪痕、熊棚、フンなどの痕跡がある場所は、近くに熊がいる可能性が高いので充分注意しましょう。ツキノワグマのフンの大きさは人と同じかやや大きいくらいで、色や臭いは食べた餌の影響を強く受けます。同じ大きさの動物のフンはイノシシくらいしかないので、ほかの動物混同することは少ないです。
また、熊はエサを求めて木に登るが、その際、爪痕や熊棚は、熊が木の上でエサを食べるために枝を折った跡で島の巣のような形をしている。
これらの痕跡を頻繁に見かけたら、すぐにその場を立ち去りましょう。
山中では食料をしっかり管理
残飯や生ゴミは、山中に埋めたり捨てたりせずに必ず持ち帰るようにしよう。仮に捨てた本人は大丈夫でも、次にその場所を訪れる人がエサ目当ての熊に襲われる可能性がある。また、熊が頻繁に出没する山域でテント泊をする場合、食料置き場・料理場をテントからなるべく離すようにしよう。
もし万一、熊が食料に近づいた場合は、追い払ったりせずに、静かにその場所を離れて、近くの山小屋や警察などに速やかに通報すること。
なるべく大人数で歩く
熊に遭難しないためには、山中の行動人数は、とても重要。
1人よりも2人、2人より3人と、人数が多いほど遭わない確率が高くなる。熊による人身事故は、単独行の場合が多いが、熊も相手が1人なら勝てると思うからではないかと考えられます。
登山中にもしも熊に遭ってしまったときの対処法
熊の棲む山を歩くなら遭わないが基本。でも、遭遇する可能性をゼロにすることはできない。いざというときに備えた対処法も覚えておきたいです。
目を見ながら後ずらす
熊は、犬などと同じように逃げるものを追いかける習性があるので、走って逃げるのは危険です。まずは、慌てずに落ち着くことが大切。大声で助けを呼ぶのは、熊を刺激するのでNG。そして、熊から目を離さずに、てを大きく広げて体を大きく見せながら、ゆっくりと静かに後退しましょう。
防御姿勢をとる
熊が4〜5m以内という至近距離に近づいてきた場合、闘って危険を逃れた人もいますが、熊を刺激するので、より激しく攻撃される可能性も高い。そこで、生還を第一に考えるなら、防御姿勢をとるのがベストです。
防御姿勢だと脚やお尻を噛まれるかもしれないが、顔や首筋、腹部などを守れるので、致命傷を免れる。背中もバックパック・リュックがプロテクターの役割をしてくれるため攻撃されにくい。
防御姿勢のポイント
- バックパック・リュックを背負ったままで地面に腹ばいになる
- 指を組んで、首の後ろを押さえる
- 肘で顔面をガードする
- ひっくり返されないように、足を開く
熊スプレーを使う
熊を撃退するために専用スプレーが販売されているが、効果的に使うには事前に正しい使用法をマスターしておく必要がある。自分の肌に少しでも付着すると、ヤケドのようなダメージを受けるので、必ず熊の向かってくる方向が風下になるときに使うこと。
また、実際に使うときには、瞬時にスプレーを取り出さなくてはいけないことを考えて、バックパック・リュックの中に入れるのではなく、胸や腰付近に装着しておくことも大切です。
熊よけ対策の役立ちグッズ
熊スプレーで熊を撃退
- カウンターアソールト
- カプサイシン(唐辛子エキス)を成分として利用した、元祖・熊用忌避スプレー
・重量:230g
・サイズ:215×直径50mm
・噴射範囲の目安:9m
熊鈴で自分の存在を知らせる
- 子熊に金棒
- 見た目もかわいい、鈴の音を止める機能が付いた熊よけ鈴
・重量:60g
・サイズ:直径32mm、全長/120mm(使用時)
- てくてくの人登山・ハイキングが大好きです。約8年間、月1〜2回のペースで、夏も冬も山に遊びに行っています。そんな自然の中で経験した登山を楽しんだり、ちょっと知ってよかったと思える情報をゆるりとお届けしています。